2 鴻野涼介の章

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【 ただのデブ 】 1番杜、2番神谷が連続三振。 あっさりツーアウト。 ···リリースポイントが変 星章学園のエース後城(ごじょう)はかなりタイミングの取りづらいピッチャーだった。 182センチ115キロ。ただのデブにしか見えないけど、これがかなり変則のオーバースローで、同じ左腕でも慶とはまったく違うタイプのピッチャーだった。 ほとんどテイクバックのないモーションから、右足を思いっきり踏み込んでくる。毎回、帽子が飛ぶほどの激しいフォロースルー。そこから150キロ近い速球と130台のチェンジアップを同じフォームで真っ向から投げ込んでくる。まるでクイックモーションの牽制球のような投球フォームで …… 『3番ショート鴻野君』 メガホンの連打にいろんな檄が重なる。右打席に入るとその声援もすぐに遠くなった。 杜には4球全部が真っ直ぐ、神谷には4球中2球がチェンジアップだった。まったく同じフォームに見えた。本当に同じなら相当厳しい試合になる。 マウンドを見上げる。 まん丸い顔に怒ったような目。 どう見てもただのデブ。 後城の左腕だけに意識を集中して構えた。 とにかくボールだけに集中 …… 1球目 …… アウトコースのストレート。 ···速い ボールの出どころが曖昧だった。 2球目 …… 同じフォームから同じコースにチェンジアップ。 ···マジか けっこう落差もある。 カンタンに追い込まれた。 どっちも投球フォームが豪快過ぎて、全力投球の真っ直ぐとしか思えなかった。 こうなるとヤマを張るしかなくなる。 3球目 …… すぐにモーションに入る。 考える時間もくれない。 ···じゃあ、ストレートで 威圧感に釣られるように早めにバットが出た。 インコース。 ···浮き上がった 差し込まれて手打ち気味になった。 ···クっ 無理やり腰を回してヤケクソで振り抜く。 キーン ! ちょっと擦り上げた感じ ……だけど 意外と手応えがあった。 ずいぶん高くあがっていた。 360°凄い大歓声が体にぶつかってきた。 打球を見ながら全力で走る。 センターがまっすぐに背走している。 一塁ベースを蹴る。 フェンスに書かれた115.82mの文字にセンターが右手をついた。 ···はいれ 二塁ベースを回る時、センターのグラブにボールが入るのが見えた。 一塁側のスタンドから盛大な溜息が聴こえた。
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