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【 怪物 】
その裏 …
サンデー・ガルシア、圧巻のピッチング。
力のある真っ直ぐで低めギリギリをガンガン突いてくると思えば、カッター系のチェンジアップが、かなり厄介な動きをする。
投げているのは真っ直ぐとチェンジアップだけなのに、その緩急だけでしろくま打線が完全に翻弄されていた。
4番の鴻野さん …5番の中江さん …そして6番のトシを三者連続三球三振。
MLBのトッププロスペクトがその力を存分に見せつけた。
待ちに待った開幕戦。
しろくま打線の爆発を期待していたファン。
ドームには気勢を削がれたような、呆気に取られたような嫌な空気が漂い始めていた。
3回 ……
それでも、トーヤさんがマウンドに上がるとスタンドは一気に活気づく。
2イニング受けて、トーヤさんの配球は固まった。
序盤はナックルは見せ球にして、真っ直ぐと横の変化…スライダー、ツーシームを軸に組み立てる。
バッターが横の変化を見切り出したら、縦の変化…スプリット、シンカー、カーブに軸を移行する。
状況を見ながら、ナックルを効果的に使う。
でもピンチにならない限り、ナックルは多投しない……バットに当たらなければ球数が増えるだけだし、パスボールのリスクもある。
何せトーヤさんは久々の実戦マウンドなのだから、今日は出来るだけ少ない球数でリリーバーに繋げたい。
7番、持田 …2球目のスライダー。
右中間のライナーをトシがランニングキャッチ。
8番 、河本 …3球目のツーシーム。
ショートゴロを水野さんが華麗に捌く。
9番、 加藤 …初球のツーシーム。
レフト線上に上がったポップフライを中江さんがスライディングキャッチ。
見事過ぎる制球力、そして安心のしろくま守備陣。
その裏 …
7番の森田さん …8番のコータさん …そして9番のダイチが三者連続三振。
これで初回の大沢さんから7人連続で三振……しろくまの一巡目は水野さん以外オール三振となってしまった。
4回…… 5回……
初戦から緊迫の投手戦で回が進む。
しかし内容は対照的だった。
打たせて取るトーヤさん、バットに当てさせない怪物。
ガルシアはノリノリで飛ばしまくっていた。
あの西崎透也と互角以上に渡り合ってる。
その高揚感が彼をゾーンに導いてしまったのかも知れない。
五回までに13奪三振のパーフェクトピッチング。球数はわずか45球。
しろくまは二巡目に入っても三振のヤマを築いていた。
6回 ……
そんな怪物のワンマンショーをしろくまの下位打線が突破口を拓いた。
8番コータさんがチェンジアップを思いっきり振り抜いた。
サード強襲ヒット。
遂にランナーがでた。
続くダイチが丁寧に送る。
ツーアウト2塁で回ってきた3回目の打席。
「1番キャッチャー京川、背番号51」
うおおおおおおおおおおおおおおおおー
4万人を超える強烈な圧を背中に受けて左打席に入る。
マウンドの怪物がおれを威嚇している。
・・・こわいなあ
でも不思議と落ち着いていた。
とにかく先制点………なんて考えない。
来た球を強く叩く、それだけだ。
去年の日本シリーズ。
北見、伊勢谷、鳴沢、袖崎、千堂…マザラ。
気が遠くなりそうな強烈なプレッシャーの中で、対戦したマトリックスのエリート投手陣。
あれに比べれば……
ガルシアのセットポジション。
今日の2打席はチェンジアップにやられていた。
160キロのタイミングで待つと、どうしてもあの変なチェンジアップに体勢が崩れる。
なら……自然体で待つ。
自分の反応を信じるのみ。
初球。
アウトロー。
「ストライクッ !」
159キロ。
・・・ギリギリ
とても手が出ない。
少し重心を後ろにして軸足に体重を乗せる。
軸足にキャッチャー磯部さんの視線を感じた ……ような気がする。
真っ直ぐ狙い ……って読んでくれたと信じて ……
2球目。
インロー。
・・・きたっ !
チェンジアップ
溜めて …… 溜めて ……
ステップを踏まず、腰の回転だけで逃げる球にバットをぶつける。
・・・捉えたっ !
サードの頭上 ……
ライン上にボールが落ちたっ !
「フェア !」
線審の声が大歓声に掻き消された。
コータさんはすでに三塁を回っていた。
ボールに追いついたレフトがバックホームを諦め、二塁に送球した。
・・・よしっ !
一塁ベースに立って思わずガッツポーズがでた。
叫喚が渦巻いていた。
360度、ドームが揺れていた。
左打席に向かう水野さんからサムアップが飛んできた。
コータさんを迎えたトーヤさんがこっちに向かって拳を突き出した。
その後ろで大沢さんがニコニコ顔でバンザイしてる。
こんなショボいタイムリーに、みんな ……
・・・めっちゃ嬉しい
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