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あっ
と声にならない声を出して右手を胸のあたりにあわててひっこめ、横をみると僕と同じく引っ込めた左手を彼女は左手で握るように結んで僕を見ていた。
驚いておおきくなった瞳は光を受けて輝くようにみえ、真っ白い肌が唇のきれいな薄桃色を強調していた。
束ねて肩にかけ鎖骨くらいの位置にある髪は僕には触れてはいけない高貴な価値のあるもののようにみえた。
「読みたかったのはこれ?」
僕がスタンドバイミーの背表紙を指して訊くと
「、、うん。この間映画の再放送で観たから原作読みたいなって思って」
「そっか、最近テレビでやってたんだ。俺も昔観たのを思い出して読んでみたかったんだ。でもお先にどうぞ。俺、読むのすごく遅いから」
「いいの?ありがとう。、、あの、1組の村上くんだよね、サッカー部のエースだし作家の村上春樹と同じ名前だから覚えてるんだ」
そう言って彼女は少しはにかんだ様子だった。
「読み終わったら報せるね」
その日から僕と沙耶の付き合いは始まった。
僕はスティーブン キングに深く感謝した。
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