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例えば僕が怪我をしても、仕事の面接に受かっても、目の前で渾身のギャグをかましたとしも沙耶は表情とほんの少しの身体のモーションはあっても、言葉を発することは一切ない。
そういう災難や嬉しい出来事などが彼女自身や、彼女の家族、友人、知人、彼女自身に起こったとしても、テレビや小説の中の出来事だったとしてもそれは変わらない。
沙耶は胸につけたネックレスを右手で触って顔をうつむけていた。
「懐かしいだろ。思い出すよなぁ、付き合いたてのころ。キュンキュンしない?」
僕は思い出してニヤニヤ笑いながら沙耶に話しかけた。
沙耶は小さく「ぅ…」と息をもらしながら俯き加減のままこっちを見て耳たぶを赤くしてはにかんだ。
「はは、思い出すなぁ沙耶。よし、散歩にでも行こうか」
沙耶は頷いた。
階段を上がってくる音がして沙耶の母親がドアを開けた。
「ハルキくん。沙耶、スイカ持ってきた。食べてね。いつもありがとう」
「こちらこそありがとうございます。頂きます。すみません」
僕は少しかしこまりながらそう言ってスイカののったお盆を受け取った。
「ありがとうございます。美味しそう、今年初のスイカだ。沙耶食べよう」
「ゆっくりしていってね、ハルキくん。沙耶の誕生日に来てくれてありがとう。沙耶も楽しみにしてたもんね」
沙耶は小さくうなづいて頬を緩めてお母さんのほうを見た。
「スイカ頂いたら沙耶と散歩に行こうと思います。すぐ戻ります」
「そう。いい気晴らしになると思う。
ありがとう」
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