愚か者のステージ

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 ***  何故。  星屑のステージが終わってからしばらく、全ての天使たちが休暇と称して事務仕事を外されるのか。  何故。  天使たちは、下界へ降りることができないばかりか、望遠鏡で地上を覗くことさえ許されないのか。  そして、何故。  七月頃になると、下界で人間達の自殺が増えるのか。  少し考えれば、おかしなところはいくらでもあった。いくらでもあったはずだというのに、私は。 ――どういうこと。  どうして、休暇中に書類をのぞき見してしまったのだろう。どうして、それを見てこっそり望遠鏡を持ち出して、下界を見てしまったのだろう。  どうして、どうして、どうして、どうして。 ――神様、ねえ神様!人間達は……人間達も楽しませられるステージだって言ってたじゃない!みんな喜んでくれてるって、だから、私は、私達は!! 『人間達の数が増えています。このままでは今ある土地では住みきれず、天界まで住処を求めて進出してくるかもしれません』 『科学技術も進歩しすぎていますね。特に、天界に飛ばせるような船があっては厄介です、潰しましょう』 『では、今年の星屑のステージはそれで。おおよそ、百万人ほど殺せるプログラムを組んできた天使を採用するということで』 『意義なし!』  議会の記録。  私達が降らせた流れ星がどこに堕ちて、どれほどの被害を齎したかの報告。  そして、星屑のステージが本当は、毎年必要以上に増えていく人間達を流れ星によって減らすために行われていたという現実。  八月一日が、人間達にとっては――毎年起きるおぞましい災厄の日として覚えられていたという、真実。  ゆえに、彼等は七月になると絶望して、多くの者達が自ら命を絶ってしまうのだ。ああ、私は何故思い至らなかったのだろう。あの綺麗な流れ星が、一体どこに行くのかという簡単なことに! ――神様とは。……人間達を管理するための、職業。幸せにするのが仕事では、ない。  青空の下。星屑のステージがあった草原で、私はただ茫然と空を見上げるしかない。  開いてしまったパンドラの箱の中には、希望などひと欠片も残ってはいなかった。少なくとも、私にとっては。 「セレティーヌ、聞いて!」  何も知らないクレールが、嬉しそうな顔で駆け寄ってくる。 「さっき、連絡があったの。わたし達神様になれるかもしれないって!」  その声を。  私は絶望的な気持ちで、聞くしかなかったのである。
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