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血の繋がったパトロン
「女児に手を出せよ!?」
「何それ、じゃあ私があのクソ親父の所に置いてかれる羽目になるじゃん」
頭を叩かれながら突っ込まれる。痛い。痛いすぎる。いつもいつも痛すぎるんだよ。手加減してくれ。
「別にそういう意味じゃなくて……なんて言うか」
「それに、男でも女でも気持ち悪いにもほどがある。子供相手に欲情するとかマジでありえない。気持ち悪い。あの男の精子から産まれたかと思うと吐き気がする」
「精子から産まれてないよ? 産まれたのは子宮からで、僕たちの体を形成したのが」
「マジレスとか求めてないから」
姫生は黙れと言わんばかりにテーブルの下で僕の足を踏む。
痛いんだってば。暴力反対。
「龍生には申し訳ないなんて思ったことないけど」
「思ってくれ。頼むから申し訳ないと言わなくてもいいから思って。僕の姉なんだから、血が繋がってるんだから」
「事件の後すぐ離婚して、お母さんは私だけを連れて出てって、金持ちと結婚して。結果的には良かったと思ってるし、龍生もそう思うでしょ?」
十三年前、家族はバラバラになった。
父親が近所の男の子に手を出して逮捕されたのが原因。
母は事件後すぐに離婚、姉の姫生を連れて家を出ていった。
僕は連れてってもらえなかった。
「お母さんが龍生を見るとクソ親父の顔が浮かぶって言ってて、子供ながらに可哀想だなと思ったんだよ? はぁー私ってばいいお姉ちゃん」
「はいはい、優しくてとっても優しくて優しすぎるいいお姉ちゃんですねー」
「棒読みすんな」
おしゃれなカフェに何度目かの叩かれた鈍い音が響く。
小さい頃から暴力的だったけど、成人しても変わらないとは。彼氏と長続きしない理由がよくわかる。
「はい。本題。報告会始めるよ」
まるで僕が本題に入るのを邪魔してたような言い方。
毎月そう。姫生と会う度に同じことを繰り返してる。
就活の愚痴だったり、彼氏、バイト先の愚痴。下ネタパラダイスの時もある。家族のそういう話は気まずいからやめてほしいのに、姫生は僕の気持ちなんてお構いなしになんでも話す。
僕は姫生に逆らえないから、黙って聞くしかないし、叩かれても文句は言えない。
心の中では文句タラタラなんだけどね。
「……はいこれ。今月は上手く描けなかった」
毎月会うのは報告会ということになってる。
姫生が出したお題で僕が一枚の絵を描く。これが姫生がお金を出してくれてることへの交換条件……ってことになってる。
はちゃめちゃで自分勝手な姉だけど、一人暮らしと予備校の費用。浪人一年目の時からずっとその二つの費用を出してくれてるのは姫生。
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