血の繋がったパトロン

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「ほんとだ、全然好きな絵じゃないわ」  姫生は僕が持ってきたF15号の作品を見た瞬間に顔をしかめる。 「タイトルは?」 「……白猫の左耳」 「捻りがない」  姫生は毎月三つのお題とテーマを出す。僕はそれら全てを取り入れた絵をF15号に描く。  今月のお題は『湿気』『猫』『白』  テーマは『タイトルをつけること』  言い訳をしていいなら、今月は予備校の課題が難しくて上手く描けなくて時間を取られた。バイトもなぜか毎日混みまくって毎日残業。  バイトで毎日残業ってなんなんだよ。 「青い目の白猫は耳が聞こえないことが多いって聞いたことがあるから、耳の聞こえない白猫の左耳の世界を表現……してみました」 「まず、お題をストレートに取り入れすぎ。捻りがなくて驚きも感動も何もない」 「……はい」 「次に湿気の表現が曖昧でわかりにくい。誰が見てもこれは湿気を表現してるんだってわかりやすく描かないと」  ムカつくことだが、母の再婚相手は画廊を経営してるらしい。  十年以上たくさんの絵に触れて囲まれて育った姫生は目が肥えてる。  姫生の指摘は予備校の先生と全く同じだし、アドバイスを素直に受け入れて描いたら僕史上最高の絵が描けたこともある。  小さい頃から絵が大好きでずっと描き続けてる僕と、絵なんて興味なかったが目の肥えた姫生。  母に置いてかれて高校卒業まであの性犯罪者の父親と暮らすしかなかった僕と、母と一緒に家を出て金持ちな新しい父親と何不自由なく暮らしてきた姫生。  十年ぶりに再会した時は嫉妬しかなかった。なんで今更会いに来たんだよ。母も姫生も僕を捨てて今まで気にしてなかったくせに。僕が父親と二人で暮らしたこの十年、どんな目で見られてたか。どんな噂を流されてきたか。  ふざけんな、なんで姫生だったんだよ。なんで僕じゃなかったんだよ。 「今の話を聞いて、龍生が考える改善点は?」 「お題をそのまま入れるのはいいけど、少なくとも一つはお題から連想して捻りを加える。それと、」  でも、嫉妬はすぐに消えた。  姫生は僕の生活費を全部出してあげる。再会してすぐにそう言った。  俺を捨てた母の再婚相手が稼いだ金なんかで暮らしたくない。僕がそう言うと姫生はパパのお金じゃない、私がガルバで稼いだ金だと言った。
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