血の繋がったパトロン

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「そうね、そうするといい。じゃあエスキースまででいいからこの絵を納得のいく絵に変えて。じゃあ今月のお題はこれね」 「……姫生、ありがとう」 「何? 突然お礼なんて言っちゃって? 死ぬの? 死亡フラグ?」 「違うわ死なないわ。三年も僕のこと養ってくれてるのに、お礼言った覚えないなーって思って」 「別にいいよ。私の自己満だし」  何度聞いても姫生は同じ理由を言う。  僕を養うのは罪悪感からだと。  母に手を引かれて出ていった時、九歳の姫生が僕を助けられるわけがない。何も出来るはずがない。  でも、姫生は思ってた以上に僕に罪悪感を抱いてずっと気にしてたんだと言う。  大学生になって、門限がなくなって、ガルバで働きだして。僕を養えば、僕の夢を叶える手助けをすれば、罪悪感をなくせるらしい。  どうしても絵の勉強をしたい。でも、金がない僕は国立の東京藝術大学しか目指せない。浪人するのはいいが、予備校も高くて全ての費用を僕一人で稼ぐのは難しい。  助かってる。姫生には感謝しかない。  お金を出してくれて、僕の絵を見てくれて。  再会するまでの十年はずっと恨んで嫉妬してたのに、再会してから今までの三年間は感謝しかない。 「今は就活で毎日メンタルやられてるし、龍生のことはサンドバックだと思って愚痴たくさん言うし、絵に対しても思ったこと全部言うとスッキリするんだよねー」  自由で自己中で、暴力的で口も悪いし態度もでかい。  今も銀座のおしゃれカフェで足を組んで、指で髪をクルクルといじって、偉そうに頬杖をついてる。 「サンドバック言うな」 「私、好きな人のこといじめたくなるタイプなんだよね」  それでも、本当は誰よりも僕のことを気にしてくれて、弟として大事にしてくれてる。  僕もそうだ。姫生が僕のたった一人の姉でよかったし、本当に大事に思ってる。 「あーあ。私の彼氏も龍生みたいに言うこと聞いてくれればいいのに」 「姫生がダメ男ホイホイなのはもう直らないと思う」 「ダメ男ホイホイって何!? 何そのゴキブリホイホイみたいな言い方! 許さん!」  弟としては、姫生の男の趣味にはほとほと呆れてるが、年とともに落ち着いてくれることを祈るしかない。お願いだからまともな人と付き合ってくれ。ダメ男を義兄と呼びたくはない。 「そろそろバイトの時間だから行くわ。来月の報告会はまた連絡して。それに合わせてシフト出すから」 「はいはい。気をつけてよー私は彼氏とラブホデート楽しむわ」 「……大声でそういうこと言うな馬鹿」  今年で浪人は最後にする。  諦めじゃない。姫生にいつまでも甘えて養ってもらうわけにはいかない。  今年こそ絶対受かってやる。来年こそ藝大生になってやるんだ。画家になる夢を叶えるためにも、姫生に負担をかけさせないためにも。  姫生に自慢の弟だって言ってもらうためにも。
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