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姉とずっとなかよく一緒にいられますように。
「なんだ、おんなじじゃない」と姉がわらった。「双子だもの」とわたしもはにかんだ。もうひとつの願いごとを後ろに隠して、静かに握りつぶしながら。
あれから十五年経った。わたしも姉も笹に願いごとを飾る年齢ではなくなってしまった。願いごとがかなわないことも知ってしまった。
荷車を押して、最後の坂をのぼり終えた。
割るように森が拓ける。つゆ草の咲き群れる野原に月がまぶしいほどに明るかった。ところどころに揺れるのは月見草だ。月の光をたっぷり吸って咲いた月見草は花そのものがぼんやりとひかっている。一輪摘めば、きまぐれに雲が月を隠しても帰り道にはこまらないくらいには。
野にひとつ踏みだせば、足頚にさわさわと野草が触れた。馨りたつような月影を頬に享けながら、わたしは細く安堵の息を洩らす。
ああ、今晩が満月でよかった。
野の中程に荷車をとめて、荷台に掛けられた蓋いをいっきに剥がす。なかには円形のおおきな木桶と、そこに膝をまるめて横たえられた――――
「姉さん」
奇麗な、姉の死体があった。
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