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困った。
逃げられない、と思ったら、雨粒が囁く不規則な音。
違う星のひとなのに、今だけは、同じ気持ちのような気がして、身近に感じる。息がかかり、水橋さんならいいか、と唇を委ねると、ぴちゃん、と1回だけ雨音が響いた。このまま音が鳴らなければいい、そう思い、目を閉じて耳を澄ます。
2回目で唇を離し、彼の腕を掴んだ。
「……決定打を、下さい」
水橋さんは困ったような緩んだ表情を見せ、もう一度だけ唇を重ねた。
瞳を閉じたまま3回目のぴちゃんを待つ。握られた腕の感覚が消え、急に実感した。
私が好きになったひとは、いつも一緒には居られない。じんわりと熱を持ったものが瞳から落ちた。
雫は音もなく、雨に紛れて溶けた。
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