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ずるい、反則。今度こそは、何か決定打を、と思うのに、また1年経って、オンボロ公園のベンチに腰掛けている彼を見ると、私のこのもやもやなど小さなことに感じてしまう。
これが惚れた弱みってやつ?
雨にくゆる腕が私に手を振って、直接話が出来るだけでも、嬉しくなってしまうから、私は単純だ。
「久しぶり。元気だった?」
「水橋さんもお元気でしたか?」
「うん、すこぶる元気。……制服じゃないんだね」
「はい、もう卒業しました」
出会ってから、3回しか会っていない間に3年経った。距離だけの問題ではなくて、私たちは圧倒的に、過ぎた時間の共有率が低い。私服を初めて見せたからか、彼はやけに物珍しそうに私を見た。
「……もう遅刻して、ムキになってる天文部ちゃんには会えないんだ。あれがデートの始まりだったのに」
「デート……、のつもりだったんですか?」
「もちろん」
手を取られ、隣に座る。
同じ視線から眺める雨雫はつらつらと連なり、光と土に還る。この風景を持って帰りたいと彼は言っていたけれど、水橋さんに想いが募れば募るほど、会えた嬉しさは大きくなり、距離の遠さを感じては、寂しく思う。
言葉にして関係を定められないのなら、せめて、少しでも共有出来るものがあればいいのに。私を水星に連れて行ってくれないのかな、なーんて、無理だよね。
「……連れていくのは無理だな」
困った笑い顔に優しく覗き込まれてハッとする。そう言えば。
「1年前は恥ずかしがってしゃがみ込んでたのに。心の声はわざと聴かせたの?」
だったら策士だ、と水橋さんは髪をかき上げた。
おでこが意外に広いんだな、と見たことない部分に喜んでいると、私の頬は、その腕に捕まった。
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