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スマホに映った天体たちを順番に見せながら、図鑑に載っているような内容を分かりやすく、かつ面白く語るものだから、彼の話をもっと聞いていたくなった。
『……やっぱり俺はサボることにする。これから星に帰るから、また1年後、ここにハンカチを持ってきてくれる?』
合図はこのオンボロ公園の雨音、と彼は私の理解を無視して、続けた。
俺らの間ではシグナルって呼んでる。水星人は地球に来るとき、雨音をシグナルとしてやってくる。地球人が思うように、宇宙船みたいな未確認飛行物体ではるばるやってくるなんて、めんどくさいし、時代遅れだから、最近はワープが主流。文明が発達しているのは地球だけじゃない。科学がさらに発展すれば、物質はシグナルで飛ばせるようになる。残念ながら今の技術ではシグナルを選べないけど。
と、確信めいた物言いに、ただハンカチを握りしめていると、
『百聞は一見にしかず』
と、今度はベンチに落ちる雫を指差した。
『等間隔で落ちた3回目がシグナル』
大粒の雨が光を含んできらめき、ぴちゃん、ぴちゃん、ぴちゃんと3回。
目の前に居た水橋さんは、ノイズまじりの残像に。
『っっっ! えっー!?』
『いい反応だね、天文部ちゃん。連絡先はスマホに送った。また、話をしよう』
年齢よりも、もっと大きな壁は、星の違いだった。
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