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それ、絶対、騙されてるから。
同志だと思っていた天文部の友人には、そう一蹴されてしまった。けれど、スカイブルーのハンカチは確かに手元にある。苦肉の策として、さみだれに匂いを嗅がせて、警察犬のように何度か散歩に出た。
しかし、いつもたどり着くのは水橋さんが消えたオンボロ公園のベンチだ。
最初の1ヶ月は、誰に何を言われても信じていられた。でも、もう少し経つと、あれは夢だったのかと段々と不安になってきた。連絡先は送ったと水橋さんは去り際に言っていたから、スマホのフォルダをくまなく探した。送られてきたはずの宛先は、残念ながら文字化けしていて、何回か送ってみても、メッセージは送り先不明で返ってきた。
「嘘だったの? それとも幻?」
天文部に属している以上、地球人以外の生命が存在していることを否定したくはない。それに私は、確かにこの目で彼がワープする瞬間を見た。
時折、雨の日に公園に寄って、ベンチに落ちる雨音を3回待ってみたけれど、そんな偶然は滅多と起こらず、水橋さんは現れなかった。不思議な出来事に胸を弾ませて、今日こそはと思いながら通っていたけれど、半年経てば、自分の確信が徐々に揺らぎ、友人が言うように、あの出来事は白昼夢に近いものだったのではないか、という思いが頭をよぎり始めた。
その度に持ち歩いているハンカチの存在を思い出しては確認し、公園に通っては不安を抱いて、を繰り返していた。
ちょうどそんな時、
―――1年ぶりです、お元気ですか? 星が違うと連絡先も変換しないとダメですね。変換に戸惑って、1年も掛かってしまいました。寝坊しても、サボらずに学校に行っていますか? 梅雨に入りそうなので、近々、そちらにお邪魔しようと考えています。天文部ちゃん、俺のこと、覚えてる?
と、差出人不明のメッセージ。
イタズラかと思ったけれど、敬語と最後のくだけた言葉に雨のシグナルを思い出した。
―――水橋さんですか?
すぐさま、カバンの中でぺっしゃんこになっていたハンカチを発掘し、もう一度洗濯をして、アイロンをかけた。いつもは期待はずれの雨模様。でも、今日は違う。
ただ、あの雨音を目指し、傘をさして走った。
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