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「やあ、1年ぶり」
水橋さんは去年と同じ姿でベンチの横に立っていた。
「……夢じゃなかったんだ」
「夢だと思ってたの? 1年前の出会いはなかなかのインパクトだったよ」
「……インパクトって……、それはこっちのセリフです」
「そう? 水星人ってバラしちゃったから、どうせ怯えられるだろうな、と思ってたけど、去り際に天文部ちゃんは喜んでくれてたでしょ? あれ、結構、嬉しかった」
喜ぶと言うより、ただ驚いていただけ。
星が違うと喜ぶポイントもズレてしまうのだろうか。
彼は流し目を細めて笑った。その姿を見て、私もなんだか嬉しくなる。スーツも立ち姿も、濡れた髪ですら1年前と同じで、時が経ったのかと疑いそうになる。
「……今も喜んで寄ってきてくれたね。……いや、でも、まさか、俺を捕獲して一攫千金とか狙ってないよね?」
思ってもなかった指摘に思わず笑ってしまう。
「まさか。ナイですって。……でも、現実で良かった。また会いたかったから」
異星人にそんなこと言ったって意味ないよね、としゅんとした気持ちと、勢いで、口にした好意。のぼせるような恥ずかしさに、顔を背けた。
「……会いたかったの?」
向けられた瞳の奥、見覚えのある色に吸い寄せられる。
「って、天文部ちゃん、近い、近い」
「……この色、水星ですか?」
「え」
「すごい、綺麗。ディープグレー?」
「あぁ、よく分かったね」
水橋さんは、俺の故郷はさ、と瞳と同じ星について語り始めた。地球からの距離は7700万キロメートル。太陽に一番近い星。大きさは地球よりうんと小さくて、月の3分の1(そう言われても天文部の私でもピンとこない)。
「金星が隣。けど、金星には野蛮なやつが多くて。水星を侵略しようと目論んでる。だから、気が抜けないんだよね。地球に時々やってきては、色んな資源を運んでるみたいだけどーーー、」
水橋さんは次々と話を続けた。雨は古い屋根に当たって音を響かせている。あんなに聴きたかった雨音は、今はもう、別れの音になってしまわないかと気が焦る。
星だけの話じゃ、物足りない。
「……星の話、面白いです。けど、私、他にも聞きたいことがあります」
「何?」
さっきのように瞳を見つめると、また意識を持っていかれるかもしれない。できるだけ一息で。
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