第一章・ー創世の民ー

6/6
前へ
/25ページ
次へ
 この闘いを唯一止められる肝心のオフィーリアが倒れていて、どうしようもない状態では打つ手がない。 「……」  アニーはそれ以上、何を言う事もしないようだ。  再び前を向き、対峙したままの二人を見詰めだす。  それで仕方なく、シェイカーも審判役に徹する事を決意した。  トウジが困惑を隠さないアンダーテイカーを睨む。 「初めに言っておく。俺をただの人間と侮ると、痛い目を見るとな」 「否……。それは。しかし、本当に良いのかムラサメ刑事? 俺も手加減をしなくて大丈夫と言ったが」  そう言えばアンダーテイカーは、トウジの正体をまだ知らされていない筈だと思い至る。  だからこそ、上級で、且つ実戦経験の多い“昏きもの”であるアンダーテイカーが、本当に手加減なしで闘っても大丈夫なものかと問うているのだ。  言われたトウジの表情が、僅かに厳しいものへと変わる。 「構わない。お前の性根を叩き直すための手合わせだ。こちらも手加減などするつもりはない」  してくれ! とは心の中で叫んだシェイカーだったが、一度「止めない」と約束した手前、行動に移す事はしない。  だが、頭では理解していても、気持ちが追い付いていないのだ。  そんな、始めの合図をするのを迷っているシェイカーを、トウジが言い知れぬ迫力を伴った瞳でじろりと睨む。  これは急かされている。  今はアンダーテイカーに怒りの矛先が向けられているとはいえ、シェイカーも同様に、トウジからの怒りを買っているのだ。  つまり、とてもではないが、他人事ではない状況であるので、呑気に相棒の心配などしていられないのである。  合図を引き伸ばしたつもりではないが、トウジからすればそうとしか見えないのだろう。 「……始め!」  仕方なく、上げた片手を勢い良く下ろしながらそう発する事で、闘いの火蓋を切ったのだったーー。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加