フィラメントに流す好奇心

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   晴れの続く、梅雨の明けた7月の終わり。私はランドセルに常に忍ばせておいた集音器と豆電球の使い時を見計らっていた。大人たちは梅雨が明けて嬉しそうだけれど、こんなにも雨が降らないのはつまらない。なかなかおばあさんの家に行けない私は退屈な日々を過ごしていた。 「このは、いい?あのボロ屋敷にはもう行っちゃダメだからね」 「はーい」 「ほら、ヘッドフォン」 「ありがとう!いってきまーす」  家から駆け出して、開けた広場の真ん中で空を仰ぐ。あ、そろそろだ。そう確信した途端、夏空にバケツをひっくり返したような大粒の雨が降り始めた。やった、当たり。最近覚えた雲模様でのお天気当て。今日は雨が降ると思ってたんだ。  私は慌ててランドセルを開けて集音器と豆電球を取り出す。道行く人が見てくるのも気にせずに雨音を採っていった。遅刻しちゃうかも、そんなことは考えないでせっせと集める。えっと、忘れないうちに付箋に名前も書いて、っと。集中して作業をしていると、ふと、雨音が一枚布を挟んだ音に変わった。はっとして顔を上げるとおばあさんが傘をさして立っていた。 「馬鹿だねえ、びしゃびしゃじゃないか。うちにおいで。ヘッドフォンが壊れちまうよ」  そう言って手渡されたタオルは、びっくりするくらいに真っ白でふかふかで。 「ふふ、きもちいい!」 「分かったから、ほら」  手のひらをひらりと揺らし誘うおばあさんの口も、そしてきっと私のも、真っ逆さまになった虹みたいに緩いカーブを描いていた。
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