フィラメントに流す好奇心

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「……楽しい」  どんな音も邪魔にはならずに楽しさへと変わっていくこの感じがすごく久しぶりで懐かしい。いつもならパニックになりそうな大きなトラックの音でさえも、ショーが始まる前のブザーみたいで面白い。私を追い越していく中学生のお兄さん達の笑い声も、なんだかとっても楽しそうで私まで笑顔になる。嫌なことを言われたことなんてすっかり忘れた、浮かれた帰り道。  そんな中ふと目に止まったのは、家の近所にある、絶対に近寄ってはいけないと普段から言われているボロ屋敷だった。  何故かこの日はそのボロ屋敷に気を取られて遠くの雨の音に気づくのが遅れた。そうこうしているうちに、ポツ、ポツ、と腕に雨が落ちる。あっ、と思った時にはもう連なって連なって雨は降り続けていた。慌ててヘッドフォンをランドセルにしまいながら思い浮かべる。そういえば、今日は雨が降るって天気予報でやってたっけ。玄関に忘れ去られたお気に入りの雨傘を思い浮かべ、またひとつげんなりとする。楽しいとげんなりを繰り返すうちに、目の前にはあのボロ屋敷があった。全身が濡れてしまうよりはいいだろうと思って軒下に逃げ込む私を通行人のみんなが横目で見ては訝しげな顔をして過ぎ去っていく。それほどまでにこの家の家主はこの地域では嫌われているのだった。それを知ってもなお、軒下に居続けたのには理由があった。  この家からはいつも、ちょっと不思議な音が聞こえてくるから。
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