フィラメントに流す好奇心

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「誰だい、人んちで勝手に雨宿りしているのは」  軋んだ引き戸を開けて出てきたのは家主の老婆。汚い身なりのわりに匂いはしなかった。噂が噂を呼んで膨れ上がっていた老婆の姿も、よく見ればただのおばあさんだった。 「ごめんなさいすぐに帰ります……あっ、でも遠くで雷が鳴ってるからもっと雨が強くなるかも。雨戸、閉めた方がいいですよ」  ぽろっと零した言葉を、驚くことなく受け入れたおばあさんは、せっせと家の雨戸を閉め始めた。 「何やってるんだい、あんたも手伝っておくれよ。タダで雨宿りはさせないよ」  そう言われて慌てて私も重い雨戸を閉めるのを手伝っていく。ギィ、ギィ、と鳴る音が耳に大きく響いて頭が痛くなった。ぎゅっと目を閉じるとおばあさんが一言「あんた、耳がいいね」とだけ言って部屋に入っていってしまった。私の言った通りに強くなる雨。さっきのあれは褒められたのか、なんなのか、分からないままに、ランドセルの中からクリアファイルを出して頭を守りながら軒下から出てお礼を言った。 「あのっ!ありがとうございました……っ」 「帰るのかい?雷、近づいてくるんじゃないのか?音が嫌ならうちに来ればいいさ。ほら、濡れちゃうだろ、家の中を濡らされても困るから早く入りな」  私の耳を心配してかけてくれた言葉と、自分の家が濡れることへの心配のちぐはぐさに少しおかしくなる。びしゃびしゃに濡れたクリアファイルを服で拭いてから玄関に足を踏み入れた。
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