フィラメントに流す好奇心

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「お邪魔します」  玄関から一歩入ると、不思議なあたたかさが私を包んだ。そこには無数の豆電球がぶら下がっていて、光ではなく何か別のものを抱え込んでいるようだった。 「これは……?」  つい言葉に出てしまった私の問いに少し自慢げに答え出すおばあさん。曲がった腰の後ろで手を結んで電球を見上げた。 「これはねえ、雨音さ」 「えっ、雨音?」 「そう、雨の音。いろんなところの、いろんなね」  目の前にある豆電球には付箋が一枚貼られていて「ぽつぽつ」と書いてあった。 「ぽつぽつ?」  不思議そうに私が声に出すと、おばあさんは豆電球を取り外して私の耳に近づけてくれた。 「目を閉じて聞いてごらん」  私は言われた通りに目を閉じた。少し緊張で震える手がその音でぴたりと止まる。それは降り始めの、私がよく聞く音だった。空から一滴、まず始めに落ちてくる勇気のある音。ぽつ、と鳴った後に続く寂しがり屋の音。そんな「ぽつぽつ」だ。 「わ、私これ知ってる!いつも雨が降り始めるときに聞こえてくる音だ!」 「やっぱり、思った通りだね。あんた、耳が相当良いだろう。ほれ、じゃあこれはどう聞こえる?」  ぽい、と手渡された少し小さな豆電球。割れないようにそっと耳に当てて聞いてみる。  そしてまた目を閉じた。  静かな森の中。葉っぱのうえを滑り落ちる雨粒が下を流れる川に合流する。その音は「ぴちゃん」。等間隔で川に合流していく雨粒が鳴らすその音はとても小さく、けれど耳から離れない印象的な雨音だった。 「ぴちゃん……?」 「ふん、いいねぇ、じゃあ次、これは?」  おばあさんは「そねそね」と書かれた付箋が貼ってある大きな豆電球を持ってきた。「そねそね」?私が不思議がるのを面白がっているようで、手を組んだままにこにこしながら私の様子を伺っている。 「そねそねなんて雨音、あるんですか?」 「さあね、あんたにそうやって聞こえるかどうか次第だね。聞こえないやつには聞こえないさ。もちろん、聞こえるやつには聞こえるけどね」  私は、それを挑戦状のように捉えた。聞いてやろうじゃないか。私の耳ならきっと。ふう、と大きく息を吐いて豆電球を耳に当てる。目を閉じて集中をする。  まずは何も聞こえない無音の状態が続き、少しずつ音が聞こえ始めた。浮かぶイメージは幼い頃の自分。布団の中に入り込んでお昼寝をしようとしていた時のこと。雨だからと締め切っていたカーテンを何故か私は開こうとしている。よちよち歩きの私がカーテンに触れた瞬間、音が流れ込むように耳に入ってきた。優しく、静かに降る雨の音は―― 「そねそねだ……」 「やるね。昔に聞いたことがあったんだろうね。いい耳だよ、それ」
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