第1章

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 ──M博士はいよいよ屋上に足を踏み出すという前にもう一度、頭の中であらゆる段取りを確認した。そうして外から叩き付ける風雨により、いつにも増して重たくなった鉄のドアを、全身の力で押し開け渾身の力を振り絞り外壁に押し当てた。それから事前にドアのそばに用意していたコンクリートブロックを、ドアストッパー代わりにどうにか立て掛けた。──早くももう雨風が新たな通り道を見つけたように建物の中に勢いよく吹き込んでいる。  博士の目を容赦なく雨がたたきつける。  博士は目を細めて、十メートルほど先の避雷針に目をやった。    まさに十年に一度の大嵐の中で、研究棟の避雷針に未だ落雷していないのは奇跡に近かった。屋上での準備が整う前に落雷が起きたなら博士の計画は万事休すである。落雷による電流は地中に上手く流れず、研究棟は相応の被害を被ることになるだろう。──何故なら電流を地中に流す避雷針から伸びる導線の先の金属板は、前もって彼の手で地表の浅い場所に埋め直されていたからだ。  大丈夫。  まだここに雷は落ちない。    博士は今宵に限っては、いよいよ神が自分に味方していると感じていた。    きっと万事上手く行く。  必ずカレンを蘇らせる。
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