アザゼル

4/6
54人が本棚に入れています
本棚に追加
/120ページ
そこから、捕らえられた私は……長い、長い、どれぐらい経ったのかも分からぬ程の時間、時空の牢獄に捕らえられることになった。 「やあ、久しぶりだね。…あれから書物は無事に渡せたかい?」 ある時、突然やって来たのはあの日、知恵の書物を盗んだ時に居合わせた大天使だった。 「……何をしに来た?去れ。貴様が来るような場所ではない筈だぞ、ルシフェル」 「随分な言い方だなぁ、折角助けに来てあげたのに。ねえ、アザゼル……神は惨いと思わないか?今や君は大罪人だ、書物を守る役割の天使が、あろうことか…書物を盗んで人に渡すなんてこと、一体天にいる誰が予想出来ただろうね…?そして、君にとっての一番重い罰が何たるか…その全てを神は把握しておられるようだ。ふふふ…ふふ、あはははははっ!素晴らしい…!君のような者にこそ、反逆の狼煙を上げる役割が相応しいだろう」 「…なんの話をしている?」 大天使ルシフェル。最も気高く、美しい天使にして、神の玉座に並ぶことを唯一許された天使。そのような者の口から反逆という、もっとも似つかわしくない台詞が出たことに、つい驚いた私は、素直に問いかけていた。 「反乱軍に入ってくれないか?アザゼル。僕は常々…おかしいと思っていたんだよ。だってそうだろう?天使から意志と自由を剥奪し、規律に添って従わせるだけのくせに、神は人間には無償の愛を注ぐ…不公平だと思わないか?天使と人間。生まれが違うってだけで、こうも違う」 大天使は踵を返し、高々と言って退けた。 「…どうしてそこにずっと、磔にされていると思う?」 「……それは、…私が、書物を盗んだからで…」 「違う。さっきも言っただろう?大罪人だと。それなのに…どうしてまだ落されていないんだろうね?アザゼル。天でも下でもない…こんな半端な時空の狭間で、ただ磔になっている…これは、一体なんの罰だと思う?」 「?…なんの話をしている?」 もう一度、同じ言葉を繰り返すとルシフェルはせせら笑った。 「君がそこで、磔にされている間に…人間の世界ではもう既に、1000年は経っているだろう」 …薄々分かってはいた。 なにしろ考える時間だけは有り余っていたのだから。やったことの責任は、全て取る覚悟で…その上ですぐ堕天させてくれとさえ思っていた。 しかし、私はまだ此処に居る。 おそらくすぐ堕とせば、私がまたあの男に会いに行くだろうと、わかっていたのだろう。…人の一生が周りきり、人界からたっぷり離されたその後からでも遅くはない、と。そういうことだろう。 「…理解したようだね。さて、もう一度、今度ははっきり問おう。アザゼル…君には、反逆の狼煙を上げる役割を任せたい。神を殺し、僕の隣へ…玉座の隣へ導いてあげよう。さあ…この手を取ってくれ。そして僕の反乱軍に、入ってくれないか?」 磔にされ、四肢をずっとがんじがらめに巻き付いていた鎖は、そこで弾け飛んだ。 伸べられた手を掴んだあの瞬間に、私は自由になったのだ。
/120ページ

最初のコメントを投稿しよう!