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陰陽師
「それで、その妖怪に憑れている人を治療して欲しい‥と。そういう用件で?」
長ったらしい依頼人の話を簡潔に述べると、斜向かいの女は鬱陶しそうに鼻を鳴らして「だから、さっきからずっとそう言ってるでしょう」と頷いた。
休日昼間ファーフトフード店の二階には、様々な音が混じって羽虫のように煩わしい。中でも一階の階段に続く真隣の、学生らしき男女の集団が一際煩い音を立ててトレイごと乱雑に乗っていたゴミを全て中に入れた。紙とプラスチックが分けられたゴミ箱の文字が読めないのか、と舌打ちが漏れそうになる。
「分かりました。調査し見積もり次第料金をご提示するということで‥よろしいですか?ん、どうしたんだい」
「‥あ、え?あぁ、いや」
我ながら不意に声をかけられて変な声が出た「すみません、なんでもないです」
「それで結構。ではまた後日。さっき渡した名刺の電話番号に連絡くださるかしら」
女が席を立つのと先生が頭を下げるのは同時だった。そのまま此方を見ずにツカツカとせっかちな足取りで依頼人が去ると、隣から溜め息が漏れる。
「‥なんか嫌な女ですね」
「そうかい?ところでさっきイライラしていたのはどうして?なにかあった?」
バレてた。
「‥その、うるさい場所だなって」
「あははは、そりゃあ休日だし?ここ人気店だしね」
そう言って先生は笑った。
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