死化粧

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 姉は、この街で、一人で暮らしていた。  家を出たのは、男が理由だった。  相手は妻も子もいる男で、私の高校の担任だった。  あの当時の騒ぎは、今でも思い出したくない。  私は、姉のせいで大事な友達と故郷を失い、高校にも通えなくなった。  父と母は苦労して建てた家を手放し、ほうほうのていで当時住んでいた街から引っ越したのだ。  姉の男の妻に払う慰謝料は、家を売ったお金で捻出したから、生活は苦しかった。  父も母も仕事を辞めて、誰も知人がいない街での再出発は、決して楽ではなかった。結局、私は大検を取って、大学は通信教育で学んだ。  アルバイトで、学費や親に渡す生活費を稼いだ。  それから、卒業をして今は何とか自分が望んでいた仕事に就いている。  父も母もマイホームではないが、町営の住宅で、慎ましいながらも元気に生活している。  姉が家を出てから、十八年。  そんなふうに生活が落ち着いていた中での、突然の姉の死の知らせ。
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