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「まったく、仲間内でなにをしているんだ。しかも兄弟で。急所外したから良かったものの」
尾崎が呼んだ闇医者が部屋に駆けつけてくれ、水飼は医者に連れられホテルから出て行った。
君たちは本当無茶しかしよらん!と憤怒した医者には良くお世話になっていた。
今回は銃で撃ったこともあり、彼に治療を施して貰わねばならない。
間一髪だった。
渚が再び水飼に蹴りを入れる手前で医者が飛び込んできたおかげで、その場は収まった。
医者と共に駆けつけてきた如月 乙葉は、怯えながらも渚のそばにいて、なにかを言いたげにその場に留まっている。
白のブラウスにタイトスカートというシンプルな服装を見ると、その辺にいるOLだ。
隣にいる彼と並ぶと、危険な恋愛している感は否めない。
渚の目の前に立ち、見上げている姿を見守りながら、アタシは建築関係に連絡をした。
「野木くん、、、私、、」
机上に、オレンジ色の箱が空いてそのままになっているのを見ている渚を見て、アタシは胸の奥が痛んだ。
あの子はもっと渚との時間を作らなきゃだめだ。
学生時代は、勉強に追われていて、お互いに『好き』の感情だけで過ごしてきた。
もし結婚を考えるなら、相手がどんなことをして、どう考えるのかをちゃんと見極められるようにならなくちゃ。
それが2人には圧倒的に足りない。
まだ彼らは再会して3日しか経ってないんだから。
「私っ、、、」
涙を浮かべた彼女を渚は、身長差など忘れて抱きしめていた。
「ごめん、、、怖いところ見せて」
頭部にかかる彼の言葉を聞き、乙葉は首を横に振った。ハラハラ、ハラハラと溢れてくる彼女の涙は、渚の気持ちを理解しているようだった。
きっと、権田が言ってくれたのだろう。
「若は、子供の親になる決意をして、貴女にプロポーズをきちんとするつもりでここに来たんですよ」と。
廊下に乱暴に投げ打たれた真っ赤な薔薇は、花びらが散乱して、とてもプロポーズの時に使えるような状態ではなくなってしまっていた。
渚のコートのポケットには、ブライダルブティックで買った婚約指輪も入っている。
全て水の泡になってしまった。
渚は無言のままひたすらに彼女を抱きしめるだけで、何も言わなかった。
プロポーズ、やっぱりしないのね。
そうよね。
またこんな理不尽なことに巻き込んでしまっていて、他者に避妊薬を飲めと強制されたようなモノなんだから。
痛々しくて見ていられなくて、電話を耳に当てながら部屋の外へ出た。
転がっている薔薇の花束を拾いあげ、108本の重さをしっかりと腕の中に抱きながら、アタシも涙が溢れてきてしまった。
なんで全てうまくいかないのかしらね。
彼はただ、大切な人を守りたいだけなのに。
神に見放されてるの?
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