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「おはようございます、兄貴!!!」
一斉に頭を下げた黒いメンツたちの響き渡る雄々しい声で、小さいロビーが揺れたのかと思うほど迫力があった。
「おはよう。ごめん、待たせた」
その中でも体躯が細っそりとした物腰柔らかな男性が目の前に歩み寄ってきた。
「おはよう御座います、若。
交渉先にも時間を遅らせるよう伝えてますので、お気になさらず」
小洒落たスーツを着こなした藍色の長い髪を一つに結った、猫目の男性がこちらに気が付き「ごきげんよう、レディ」と微笑んでくれる。
なかなかの美形で、思わず「ごきげんよう」と返していた。
「水飼さん、お待たせてして申し訳ありません。乙葉のこと、宜しくお願いします」
「かしこまりました。お気をつけて行ってらっしゃいませ」
なんだか不思議な2人の空気感に、思わず互いの顔を交互に見比べてしまう。
ゆっくりと白乳色の大理石の上に降ろされる。
「ごめん、紹介したいけど時間押してるから。
名残惜しいけど、行ってくるね」
悲しそうに眉根を下げて、おでこに彼の唇を押し当てられる。
お腹をさする動作を見せながら、最後まで私のことを気にかけて、踵を返した。
黒のトレンチコートを翻し、颯爽と出て行く。
ドライバーが待機している黒塗りのミニバンに乗って、野木くんたちはスーツを着た男たちに見送られて走り去った。
10人余りのスーツを纏った男たちは、こちらに礼をしてから立ち去った。
何事だったのか。
キョトンと立ち尽くして見ていると、隣に立っていた男が乙葉に対して姿勢を低くし、優しい笑顔を浮かべ言う。
「はじめまして、乙葉さん。
水飼と申します。お体が優れないとのことで、恐縮ながら私めが介添させて頂きます」
良かったら、若がしていたように抱き上げても?と言われて激しく首を横に振った。
「辛くなったらすぐにでも仰ってくださいね」
自己紹介をする隙間を埋めて、淡々と話が進んでいくので、声を挙げるタイミングが掴めない。
「あの、はじめまして。よろしくお願いします」
やっと出せた挨拶を聞き、彼は猫のように目を細めてにこりとした。
「はい、姐さん」
姐さん、、、?!
そのフレーズに思わず固まっていると、水飼さんがおかしそうにクスクスと声をもらしている。
「乙葉さんは思っていることが表情に出るんですね。嫌でしたか?」
「普通に呼んで下さい。その、あまりそういうのに詳しくないので」
伏目がちに彼の瞳を見ると、なるほど!と納得している。
「では、まず私たちの親子制度を軽く説明しますね」
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