ヤンデレ彼氏はヤクザで御曹司です

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「知り、ませんでした、、、野木くんは 何も教えてはくれないので」 全部野木くん以外の人から聞いただけだ。 彼がどんなことをして、何を守ろうと必死になっているのか、私は全く知らなかった。 落ち込んでいる横顔を見てか、「じゃあ、お茶を淹れるので良かったら部屋に入っても良いですか?」と気遣った声音で言われる。 頷くと、彼はサッと部屋に入って、迷いなくティーポットのある棚へ向かって行く。 「慣れてるんですね」 思わず口から本音が漏れる。 長い藍色の髪を揺らして、彼は振り返って目を細めた。 「なので、こちらの部屋には出入りしてました。たまに会合とかでも利用してましたので。なので、ここのホテルのことならお任せ下さい」 目が絵に描いたような点になった。 「若頭、さんなんですか??」 「はい」 にっこりと、はんなりと花を舞うような笑顔が素敵な彼が“元若頭”?! 「見えないですか?」 キョトンとした表情で首を傾げている彼に、思わず2回も3回も頷いた。 「素直で可愛い方なんですね、乙葉さん」 ふふふと、軽く握った手を口元の前で押さえ、お上品に微笑んでいる。 いや、本当に若頭に見えないタイプだ。 着物が似合いそうな、どこかのお金持ちお坊ちゃんにしか見えない。 「渚さんがこちらに来るということで、(わたくし)が自ら彼の配下につきたいと思いまして、組長にお願いして今に至ります。 なので、若頭補佐という、ピラミッド型でいう3番目の位置にいます。あ、尾崎さんと秋月さんも補佐なんですよー」 極道の世界でかなり上位の人なんじゃん?! 今まで知らず知らず一緒にいたけど、、、私なんか粗相してないかな。 いや、尾崎さんにめちゃくちゃ嫌われてるな、、、。 秋月先生に関しては振ってるし、危うく恋人関係になるところまで。 みんなそういうこと自分から言わないものなんだろうな。 「知りませんでした、、、あんな気さくに話しかけてくれて、とても親切だったので」 カタギの方々には優しくするよう言われてますからね。と言いながら、紅茶のポットに湯を張った。 「それは、組長さんが出す方針なのですか?」 香りを閉じ込めるように蓋をして蒸らしているのか、ガラスで出来た砂時計を逆さにして時間をはかり始めた。 「そうですね。というより、何も悪いことしてない人に声を荒げるほど(わたくし)たちも鬼じゃないですよ。道理が通ってない人に対してだけです」 「ドラマみたいに怖い人たちばかりだと思ってました」 「過剰演出かもしれませんけど、まぁでもドラマの方が優しいかと」 その笑顔でそう言われると逆に怖い。 野木くんもこんな風に怖い時が垣間見えるんだよね。 ティーカップに注がれる琥珀色からいい香りがして、ほわっとした気持ちにさせてくれる。 緊張がほぐれそうな優しい香り。 「こまかな役がついてる人たちもいますけど、それは別にあまり覚える必要ないかと。 あ、でも、になるのであれば別かもしれませんが。 そういえば、体調が悪いのと、ことと何か関係してますか?」 もしかしてご懐妊ですか?と笑顔でとんでもないことをさらりと言われ、瞬間的に顔が真っ赤になる。 「ち、違います!」 「あ、そうなんですか?でもこれは?」 棚に置かれていた緊急避妊薬を指差され、卒倒しそうなほどに恥ずかしくて、開いた口が閉じられない。 「すみません、気になるとつい聞いてしまいたくなる性分でして。気に障ってないですか?」 「だ、大丈夫です、、、」 この人凄い観察力持ってる。遠慮ないなぁ。 タジタジと心が焦る気持ちになっているところ、彼は紅茶を差し出してきて、微笑む。 「渚さんが中出しするなんて珍しいなぁ」 もうダイレクトすぎて紅茶をゆっくり飲むことすらままならない。 「野木くんのことよく知ってるんですね」 一向に引かない顔の熱さを引かせようと、話を逸らしてしまおうと考えた。 「えぇ、本邸でよく遊んでました。 家族同然に育ったので、仲良いですよ。射精障害があると噂に聞いてましたが、出るようになったんですね。 よかったよかった」 悪気があって直球で言ってるわけではないらしい。 この人、良くも悪くも素直なんだろう。 「野木くんにとっては本物のお兄さんのような存在なのですね」 紅茶にミルクを垂らし入れて、金色のティースプーンでゆっくりかき混ぜた水飼さんは、静かに笑みを浮かべる。 「えぇ、(タネ)違いの兄なんです」 「へっ、、、?!」 「似てないですから、みんなにびっくりされます。あ、水飼って苗字は、今の(わたくし)の妻のものなんです。旧姓は青柳なんですよ」」 「そ、そうなんですか?!じゃあ、あの不思議な2人の間に流れる空気感はそう言う意味だったんだ」 「なんか感じました? 血のつながりはないですけど、お互い背中を支え合って生きてきたので、唯一無二の存在ではありますね。 あ、良かったら今度、本邸に遊びに来ませんか?渚さんが許可出すかは謎ですが、(わたくし)の妻とランチでも。 あ、今、妊娠してまして、家からあまり出られなくて退屈しているんです。渚さんの彼女はどんな子なの?と楽しみにしてるようなので、是非」 わぁ、やっぱり美形だし、大人のゆとりを感じられると思ったら、奥さんいるんだ。 この安心感は奥さんがいるからこそのものなんだ。 しかも妊娠中と聞いて、今とても身近な話題にドキッとしてしまう。 「妊娠中にお邪魔して疲れさせてしまわないか心配ですが、私で、良かったら是非」 「ふふ、あの子は人がいる方が喜ぶので、安心してください。では、帰ってきたら渚に聞いておきますね」 紅茶を飲みながらゆっくり話すことでいつのまにか時間が過ぎていった。 野木くんのお兄さんは人柄がよく、全くヤクザらしく見えなかった。 話しているあいだはずっとご近所のお兄さんと話している気分になって、つい色々話してしまう。
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