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「俺も一緒に働いちゃおっかなー」
尾崎さんが無言でジロリと野木くんを見つめていた。
謎の無言の視線を目撃しつつも、コーヒーカップに入れてくれた甘いホットミルクを手に取った。
「野木くんは狙われてる身なんでしょー?」
「今は狙われないよ。“まだ”ね」
なんか引っかかる言い方されながら、あたたかいミルクを口に含んだ。
「って、尾崎さんおはようございます?!」
「おはよう御座います、姐さん。
体調はどうかしら?仕事には行けそうなの?」
普段と違う尾崎さんの雰囲気に違和感を感じた。
「あ、今日は割と元気です。まだお腹は痛みますけど、通常通りで行ける範囲ですよ」
「医者からちゃんとした薬貰ってきたから、何かあったら心配だからこっち飲んでね」
「ありがとうございます。
身長体重教えてないのに凄いですね」
「スマホの中の情報から引っ張り出しただけよ」
尾崎さんには、私のプライバシーなど皆無らしい。
「乙葉の個人情報勝手に抜き取るなよ」
私の気持ちを代弁してくれた野木くんが、尾崎さんを睨みながら言う。
「先回りすることに悠長に体重や身長教えて?って言ってらんないわよ。有能な秘書はみんな勝手に調べてるでしょ」
確かに!
先輩たちは社長に聞かずとも自分たちで調べていたりする。
本人から聞いた方が早かったり、個人情報は直接聞いてたけど。
というより、尾崎さん私のことまでやろうとしてくれているの?!
「私は自分のことは自分で出来ますから、野木くんのことを率先してあげてください!」
私は忙しくないけど、野木くんたちはバタバタしてそうだ。
肩肘張った黒のスーツに身を包んでいる尾崎さんは、正座をしつつ腕を組んで言う。
「あんたら2人揃ってる時に片方が、これダメあれダメされるとこっちのスケジュールにも響くから、なぎたん率いるその場のみんなは、私が管理するのよ!」
なにそれ凄いプロ意識。
「私にそのプロ意識教えて欲しいです」
キラキラとした眼差しを尾崎さんに向けると、得意げに口角を引いた。
「全てはナギたんのための愛ゆえよ」
「な、なるほど?」
「教えるの下手かよ」
私はキョトンとしていたが、野木くんが苦笑しながら新聞を閉じて突っ込んでいた。
尾崎さんが用意してくれた具沢山のキッシュと野菜スープ、全粒粉のパンを食べて、急いで会社に行く支度をした。
「そんな急がなくても、今日は送って行くから大丈夫だよ?」
尾崎さんが食べ終えたお皿を洗ってくれてる間に、スーツに着替えていると、野木くんはこちらをジッと眺めている。
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