ヤクザだけど高級ホテルの支配人になります

29/34
前へ
/357ページ
次へ
「俺も一緒に働いちゃおっかなー」 尾崎さんが無言でジロリと野木くんを見つめていた。 謎の無言の視線を目撃しつつも、コーヒーカップに入れてくれた甘いホットミルクを手に取った。 「野木くんは狙われてる身なんでしょー?」 「今は狙われないよ。“まだ”ね」 なんか引っかかる言い方されながら、あたたかいミルクを口に含んだ。 「って、尾崎さんおはようございます?!」 「おはよう御座います、。 体調はどうかしら?仕事には行けそうなの?」 普段と違う尾崎さんの雰囲気に違和感を感じた。 「あ、今日は割と元気です。まだお腹は痛みますけど、通常通りで行ける範囲ですよ」 「医者からちゃんとした薬貰ってきたから、何かあったら心配だからこっち飲んでね」 「ありがとうございます。 身長体重教えてないのに凄いですね」 「スマホの中の情報から引っ張り出しただけよ」 尾崎さんには、私のプライバシーなど皆無らしい。 「乙葉の個人情報勝手に抜き取るなよ」 私の気持ちを代弁してくれた野木くんが、尾崎さんを睨みながら言う。 「先回りすることに悠長に体重や身長教えて?って言ってらんないわよ。有能な秘書はみんな勝手に調べてるでしょ」 確かに! 先輩たちは社長に聞かずとも自分たちで調べていたりする。 本人から聞いた方が早かったり、個人情報は直接聞いてたけど。 というより、尾崎さん私のことまでやろうとしてくれているの?! 「私は自分のことは自分で出来ますから、野木くんのことを率先してあげてください!」 私は忙しくないけど、野木くんたちはバタバタしてそうだ。 肩肘張った黒のスーツに身を包んでいる尾崎さんは、正座をしつつ腕を組んで言う。 「あんたら2人揃ってる時に片方が、これダメあれダメされるとこっちのスケジュールにも響くから、なぎたん率いるその場のみんなは、私が管理するのよ!」 なにそれ凄いプロ意識。 「私にそのプロ意識教えて欲しいです」 キラキラとした眼差しを尾崎さんに向けると、得意げに口角を引いた。 「全てはナギたんのための愛ゆえよ」 「な、なるほど?」 「教えるの下手かよ」 私はキョトンとしていたが、野木くんが苦笑しながら新聞を閉じて突っ込んでいた。 尾崎さんが用意してくれた具沢山のキッシュと野菜スープ、全粒粉のパンを食べて、急いで会社に行く支度をした。 「そんな急がなくても、今日は送って行くから大丈夫だよ?」 尾崎さんが食べ終えたお皿を洗ってくれてる間に、スーツに着替えていると、野木くんはこちらをジッと眺めている。
/357ページ

最初のコメントを投稿しよう!

925人が本棚に入れています
本棚に追加