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「え、いいよ。バスで行く」
「俺がやだ」
時間ギリギリまで一緒にいてよと、腰に腕を回してきては、うなじにキスを落としてきた。
「うぅっ、力抜けるからやめてよぅ」
わざと撫でるようなキスをするものだから、くすぐったいやらゾクゾクするやらで、力が抜けてしまう。
「乙葉の仕事してるところ見るためについていこうと思ってるし、一緒に行こ?」
左耳朶を甘噛みされながらも、襟元を正したりジャケットを下に引っ張って整えた。
「野木くんと一緒にいたら他の人に恨まれそうだよ」
学生の頃とはまた違うだろうが、野木くんはモテるのだ。童顔だけど色気があって、灰色がかったこの青い瞳とホワイトブロンドによる魅惑的で中性的な顔立ち。
女の子になっても絶対モテる。
野木くんの裏の顔さえ見せなければ、みんな好意的に接してくるルックス。
私みたいな脇役な女が堂々と隣を歩いたら、殺されてしまう(視線的な意味で)。
「あー、俺モテるもんね」
ヘラッと堂々と言い切るところはもう清々しくて好き。
「でも、乙葉も自分が気が付いてないだけで、モテてるの分かってる?」
クイっと彼の指に押し上げられたおかげで、彼の顔を下から拝むことになった。
「私?」
「乙葉の魅力たくさんあるからなぁ。モテるのは嬉しいけど、手を出そうとしてくるのはやだなぁ」
「そんなことしてくる人は野木くんくらいだよ」
呆れたようにため息を溢すと、野木くんはにんまり笑った。
「ま、キスマーク付けたから寄ってきても男いるって分かるしね」
ちょんと首筋を触られた。
ハッとして、化粧ポーチから手鏡を出すと、うっすらと、見える位置にキスマークをつけられていた。
「の、野木くん?!いつつけたのー?!」
「昨日、寝てる間に付けちゃった」
「これは怒るよ?!」
「ごめんね?」
にんまりと目を細めて、私を見下ろして言う彼は全く反省しているようには見えなかった。
むしろ、怒っているのを見て、喜んでもいるように見える。
ぴえーっと慌てていると、彼は観念したように優しく頭を撫でて言う。
「ごめんごめん、秘書の人たちみんな首にスカーフ巻いてるから、誰にも分からないよ」
意地悪したくなっただけ、と彼からストールを首に巻かれる。
「え、なにこれ?」
「エデンガーデンの一員になったから、俺からのプレゼント。頑張ってね」
青と水色の花が描かれた光沢あるスカーフは、顔まわりを華やかに魅せてくれた。
「え、いいの?」
「スカーフはエデンガーデンの決まりでもあるからね」
「ありがとう。お仕事しつつ野木くんの励ましがあると思うともっと頑張れるね」
スカーフはあまり巻いたことないから、結び方練習しなくちゃいけないな。
結び方の決まりとかあるのかも聞いておこう。
嬉しくて、さっきまでムッとしていたのをすっかり忘れてしまっていた。
薄らキスマークつけたのは、このためだったんだね。
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