ヤクザだけど高級ホテルの支配人になります

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「ちなみにスカーフ巻くのは青柳組が強請ったせいらしいよ」 「え?!それとスカーフになんの因果が?!」 野木くんは他人事のように笑って言うから、この人が若頭ってことを忘れてしまいそうになる。 「うちのホテルじゃないけど、違うホテルでカチコミに遭ったチンピラが短刀(ドス)で刺された時に、たまたま寄った航空客室乗務員(CAさん)が首に巻いてたスカーフで止血してくれたことで助かったんだって。 それを聞いた野木(クソ親父)が、いつうちもそういうことになるか分からないから、すぐに止血出来るようにってことで、義務化するようにしたらしいよ」 ちなみにメンズは、ネクタイかポケットチーフを入れておくのが決まりなんだよ。 と、ニコニコしながらそう言うが、あまり笑えない気がする。 「血は嫌だなぁ」 「痛いこと苦手だもんね。 そうならないように守るから、安心して働いて?」 俺も着替えなきゃなーと言いながらTシャツをガバッと豪快に脱ぐ背中を見て、赤面した。 綺麗な肩甲骨、引き締まった腰周りにドキドキしながらチラ見していると、あることに気がつく。 「そういえば、ヤクザといえば刺青なイメージだけど、野木くん入ってないね」 尾崎さんが持ってきてくれたワイシャツに袖を通しながら、野木くんは「あぁ」と宙に視線を仰いだ。 「青柳宗次郎(クソ野郎)には入れろって言われたけど、無視してる」 「組長の言葉は絶対なんでしょ?」 「箔がつくから言ってるだけだよ。 俺の背中や腕に派手な柄入ってもいいの??」 プクッと膨らませる野木くんを見て、ボンヤリと想像を膨らませてみた。 野木くんなら何しても似合うと思う。 「似合うかもね」 素直に吐露した本音に、野木くんは眉根を下げて困った顔をしていた。 「そうくるか。 入れ墨入ってることで、色々制限かかるしね。 カタギの世界に戻れる奴もいるかもしれないから、入れない方がいいじゃん?」 俺は別に若頭として威張りたいわけじゃないし、なんだったら普通の人になりたいし。 ブツブツと呟きながらボタンを止めている彼の背中を見て、なんだか胸の奥がホクホクした。 彼の背中に寄り添うように抱きしめると、野木くんの腕が私の手を握り締めた。 「どうしたの?甘えたくなった?それとも、俺のカラダが欲しくなった?」 「違っ!!」 離れようとすると、冗談だから離れたりしないでよと面白おかしく笑った。 「野木くんはヤクザだけど、優しいなと思ったの」 「優しいヤクザなんかいないよ。良いことだけをシノギに出来てれば、ヤクザになんかならないでしょ?」 「でも、今目の前にいるくんは優しい目をしてるから、優しい人なの」 刺青を入れない理由は、下の人たちに強制させないためでもあるんだと、何故か理解できてしまったから。 厳しい縦社会なのに、組長の言葉を背いてでも下の人たちを守ってるんだ。 野木くんらしいな。 自己犠牲にするところはいただけないから、大切にしてほしいと切に思う。 「アンタたち、イチャイチャしてるのはいいけど遅刻するわよ?」 皿洗いを終えた尾崎さんが冷めた視線をこちらに向けて、漆黒のジャケットに袖を通して腕時計を眺めていた。
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