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***夕暮れ時、事務所に移動したミニバンで。
昨日もだが、今日は普段よりも上機嫌そうな野木を見て、尾崎は後部座席に座る野木に声をかけた。
「ナギたん、なにをそんなに嬉しそうにしてるわけ?」
窓ガラスに映る彼の上機嫌そうな表情が、舎弟たちにも伝わっているのか、緊張感なくハンドルを握っている。
「んー?帰りを待ってくれてるって思うと、なんかソワソワしちゃうだけだよ」
「子供じゃないんだから」
「放っておけ、、あ!なぁ、結婚を承諾して貰ったら何をしなきゃいけないんだろ」
唐突な質問に、舎弟くんもアタシも顔を見合わせてた。
「さぁ。今やるべきことと言えば、まずは自分の親と相手方への承諾、、、と、ナギたんの場合は特殊だから、彼女の親戚への承諾も必要だろうね。公務員の子がいるとかだと更に。
ま、道のりはカタギの人たちよりずーーっと険しいと思うわよー。
あとあと結婚やっぱ無理でしたーってなりそうな気がするんだけどー?」
大丈夫なの?そんなに浮かれてて。と釘を刺したものの、彼はニヤニヤと口元がだらしなくニヤけてしまっていた。
さっきまでドス黒い笑顔を振りまいていた人とは思えない。
「なんか帰りに乙葉の喜ぶもの買っていってあげようかな」
「たとえばクソガキちゃん何が好きなの?」
スマホを取り出し、数々の令嬢や女たちに品物を用意してきたアタシに任せなさーいと、待ち構えたが、ナギたんは固まっていた。
時が止まってしまったかのように、明後日の方へ向いている。
「もしかして、わかんないの?」
「高校生の頃で記憶が止まってて、、、うさメロと牛乳と甘いパンケーキ、それから文房具品が好きなのは知ってる、、、」
「今あげて喜ぶと思ってんの?」
思いません、、、。
シュンと小さくなっている、天下の青柳組の若頭がこんなことで落ち込んでいた。
「なんかブランドものバックでもあげたら?」
ミュウミューとか、エルメルとか、ぐぅちとか??
何個か挙げてみたが、ナギたんは眉間に皺を寄せて唸った。
「乙葉、あまり高価なものあげてもそんな喜んでないんだよ。高価なもの身につけるのを躊躇ってるみたいで」
「変わった子ねー。普通なら喜ぶのに」
言われてみたら、庶民的なものしか身につけてなかったなと振り返り、頭を悩ませた。
ハンドルを握っていた権田が「無難に花が良いのではないでしょうか?あとはアクセサリーとか」と、遠慮がちに述べる。
「アクセサリーそういえば、唯一高そうなの身につけてたじゃない?」
「アレは俺が留学する前にあげたやつ」
えぇ、そんな前のものをずっと身につけてるのー?
「健気ね」
「そこがいじらしくて可愛いところなんだ」
可愛いくて可愛いくて、虐めたくなるよね?なんて悪趣味なことを言い出すナギたんだ。
本当、一体いつからこんなひん曲がった性格になったのかしら。
まだ全ての本性を彼女に曝け出してないらしいが、やっていけるのかどうか不安で仕方ない。
「物を大切にする子なら、やっぱり宝石かしらね」
イヤリングとかどう?あ、でも秘書課だからフォーマルでも似合うものかしら。
ブツブツと呟いていると、権田が申し訳なさそうに、口を挟んだ。
「婚約する女性であれば、婚約指輪が無難かと、、、」
ナギたんと共に閃いた表情を浮かべて、「それだー!!」と声をあげた。
スパパパッと御用達宝石店をタップしてみたが、どれも微妙なデザインばかりだ。
そういえば、ヤクザ御用達なのだから、若い女の子の婚約指輪が売ってるわけもなく、、、。
「新しくお店ピックアップしなきゃ、、、」
本屋へ行って、今時の結婚事情を探るべく分厚い本を2冊も買い込んだ。
「わぁ、今の結婚式って華やかで素敵なのねー!」
身近に結婚式挙げてる子いないから羨ましいわぁとほのぼのと眺めていると、後部座席がとても静かだった。
はしゃぐかと思っていたが、神妙な顔してみている。
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