困ります!ジェネラルマネージャー!!

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「そんなことより、みんな野木くんのこと知ってるのは、やっぱ実の息子だから?」 火照った頬をクールダウンさせようと、話題を逸らした。 お願いだから私の心の安寧を守ってほしい。 「高校生の時にホテルの手伝いしてるって言ったことあるでしょ?」 「うん、覚えてるよ」 「その時に仲良くなった人たちなんだ。 俺がやりたくてやってたわけじゃないから、ほとんどアルバイト感覚だったけどね」 「え?だとしたらアルバイトの子が、ある日突然総支配人になったってこと?」 「いや、ちゃんといろんな部門で経験積んでここにいるんだよ。ヤクザっていうこともあって、公に社員ってことにできなかったから」 暴力団関係者を社員にすると、その人がなんらかの事件を起こすと会社も警察にマークされるとかなんとかどこかで聞いた気がする。 とにかく制限がかかるのは確かだろう。 「え?だとするなら、かなりのハイリスクなのでは?!!」 野木くんは今更気がついたの?と眉根を下げて苦笑した。 「そーだよ。すごーく危ない橋渡ってる」 「なんでやろうと思ったの?!」 もしかして、本当に私と働きたいという不純な動機でなかろうか、、、。 このホテルで働いてる人が、もし野木くんに何かあったらすべて私のせいかもしれません。 そんな風に考えていると、野木くんは艶っぽい笑みを浮かべて、頬を撫でてきた。 「さぁ、なんでかな?」 また私に隠し事だろうか。 ムッとしていると、彼はにっこり笑って言う。 「俺のことで頭いっぱいにしてみて」 「そうやってはぐらかすの?」 「まだこの環境を楽しんでいたいだけだよ」 「教えてください!」 「今は教えられないよー」 ご機嫌な彼の背中を目で追いかけて行くと、千田さんと野木社長とバッタリ合ってしまった。 若干はしゃいでいたところを見られてしまったのが見られてしまい、気まずさで肩を落とす。 目を丸くした青紫色の瞳が、弧を描いて口元を押さえた。 「ぷはっ!!君は本当に表情に出ちゃうんだね。見てて飽きないなぁ!様子を見に行こうと来たのだけど、心配いらなかったみたいだね」 楽しそうに仕事してくれて何よりだ。 ニコニコとしている野木社長を見て安心したが、千田さんの言っていた言葉を思い出して、複雑な気持ちになった。 やはり期待されてないゆえに、何も指摘されないのか、、、。 ショボンとした気持ちを悟られないように、笑顔を浮かべる。 「先程、インスペクターに携わりました。違ったコンセプトなのもあり、勉強になることが多くてやり甲斐がありましたし、青柳ジェネラル・マネージャーの効率良い考えにも関心しました」 野木社長は嬉しそうに微笑んでいて、うちの息子凄いよねーと笑って言う。 「ま、僕より劣るだろうけどね!」 「野木CEO、、、負けず嫌い過ぎます」 千田さんが苦笑して言うと、千田さんの更に後ろにいる女性がこちらを見下ろしてきた。 「この子が星河グループから引き抜いたという秘書ですか?」 スタイリッシュなメガネをかけた、出来る女!と前面に押し出してきている彼女を見てドキッとした。 この人もTVで見た事あるー!! 「橋本副総支配人!」 パッと彼女の前に出て、挨拶を述べる。 彼女は子供4人の母でありながらも、このエデンガーデンの副総支配人をしているスーパーバリキャリウーマンだ。 尊敬でしかない憧れのうちの1人でもある。 バッサリと切られたベリーショートの髪は、シュッとした輪郭に良く似合っている。 何度、彼女みたいにしてみたいと思ったことか。 キラキラとした眼差しを向けられながらの挨拶に圧倒されつつ、橋本副支配人は快く笑顔を向けてくる。 「はじめまして、副支配人の橋本です。 渚さんの“婚約者”はこんな華奢で、意外と地味な子なのね」 隣にいた野木社長に向かってそう言うので、ゾッとした。 なんてこと言うんですか、橋本副支配人ー?!! みんな勘違いしている!! わたわたとしていると、野木社長の目がサァッと変わった。 「渚の“婚約者”って、誰が決めたの?」 まだご挨拶も何もしてないのに、勝手に婚約者扱いされてごめんなさいっっ!!! 社長の中で私は踏み台にしかなり得ない存在だと思っているのに、今ここでイメージダウンさせるわけにはっ!! 「まったく、みんな誰が彼女を引き抜いてきたと思ってるんだ。この僕の“婚約者”かもしれないだろう??」 「何を言ってるんですか、野木社長。渚お坊ちゃんが怒りますよー?」 「野木社長は嬉しくて仕方ないんですものね」 野木くんは首を傾げ、眉根を顰めている。 「どーゆーこと??」 ワイワイ盛り上がっているトップ達に、当の本人たちは唖然とし、私は卒倒しそうになっている。 千田さんの眉が弧を描いて、ニシシと笑い顔をして言う。 「渚お坊ちゃんも復縁してすぐに総支配人になって、かっちょ良すぎますよー! 結婚式は是非、うちのエデンガーデンでやりますよね?!もうブライダル部門には報告して、いつ挙げても良いよう調整するよう伝えておきましたんでっっ!!!」 「は?!」 「新婚旅行前は、やっぱりハワイかしら? 定番すぎかな?海の綺麗なモルディブ!パラオも良いですよ!野木グループ系列ありますしね。そこでも盛大な披露宴するのも良さそうです。ね、野木社長」 「はっ??!!」 ナイトマネージャーもアシスタントマネージャーもキャッキャと楽しそうに盛り上がっている。 どんどん進んでいってしまうので、野木くんも困惑と焦りで顔色が悪くなっていく。 恐る恐る野木社長の顔を見上げると、野木社長は私の肩にそっと手を置いた。 「言っただろう? “息子をここに連れ戻すための手段なら、君の気持ちを踏み躙っても構わない”って」 へ、、、?? 「ま!まずはうちのホテルの従業員たちに認めて貰えたらの話だけどね。 ぽやぽやしていると君よりスペックの良い令嬢がすり寄ってくるから、気を引き締めて“婚約者”として振る舞うんだよ。 ちなみに結婚式はこっちが手配するから気にしなくていい」 ニッコリと有無を言わさせぬ笑顔を突きつけられた気分だ。 これは、の意味?! 認めてもらっているの?それとも、本当に踏み台にさせられるの?! わかんない!!どーゆー展開?!! 野木くんは野木社長の手を掴むと、申し訳なさそうにこちらを一瞥して、重苦しそうに呟いた。 「まだ、乙葉にプロポーズっ、、、!」 賑やかだったその場が凍りついた。 橋本副総支配人も千田ナイトマネージャーも気まずそうに、視線を明後日の方へ向け始めた。 「え、えぇっとぉ、、、如月ちゃんごめんね」 「如月さんほんっとにごめんなさいね!! ちょっと話のがあったみたいで。もうプロポーズも終えて、両家顔合わせもこれからー!みたいな感じだと思ってたのよ」 祝福のつもりだったのー!と焦る副総支配人達は、ひたすらに謝り倒してきた。 目の前に立っている野木社長だけがにこやかに笑っていた。 どうやら、異の発端は野木社長が仕組んだもののようだ。 既にブライダル部門にまで話がいっているということは、きっとどの部門でも話が行き渡っていることだろう。 私の気持ちをとは、このことか!! 野木くんや私の気持ちなど関係なく、青柳組から足を洗わざるを得ない状況に追い込もうとしている。 それで穏便に済むなら良いが、きっと青柳組のお父さんとは仲が拗れることになるだろう。 だから、野木くんも慎重になっていたはずだ。 「ま、まって下さい!2人の問題なので!! 一度、失礼させて頂きます!!」 野木くんの手を掴み、バックヤードということもあって、社長たちの間をすり抜けて走った。
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