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野木社長の性格は掴みづらい人だけれど、根はとても優しい人のようだった。
やっぱり心の底から野木くんの身を案じて、ヤクザを辞めてもらいたいんだ。
そう思うと、自分の会社と人生を賭け、社長は挑戦したのだ。
なんて無防なことをしたのかと思ったが、野木くんの頑固な性格ゆえにそうせざるを得なかったのかもしれない。
きっと、色々手を尽くしての結果だったに違いない。
「あの、私は渚さんのそばにいてもいいのでしょうか」
私にあるのは、秋月先生から教えてもらったマナーや知識、語学だけ。
野木くんを真似して必死に取った資格たちだ。
それでも、野木くんのスペックには全く敵わない。
「君は、何を備えていたら渚の隣に立っていられるの?」
「何を備えていたら、、、」
何を。
もっと美人だったら?
渚くんをカバーできうる能力があったら?
もっと、未来を見通せるような先回りできるほどの予知が出来る理解力があったら?
言葉に詰まらせていると、スープを口に運び終えた野木社長が口元を緩めた。
「“ホテルの皆に認めて貰えたら”じゃないかな?
僕は、目に見える形で君を応援してあげたいと思っているよ」
席についてすぐ言われた言葉だ。
あれは、嫌味で言ったわけじゃなくて、私への配慮だったんだ。
「まぁ、でも、今の君が不安になってるのは、ご両親に渚と結婚しても良い!という言葉を引き出せないからじゃないかな。
特に君は、成績も優秀で、親に反抗することもなく育ってきたのだろう?
親なら、こんな真っ直ぐに育ってくれた子をヤクザだと名乗る男に渡したくないしね。
まぁ、普通の親はダメって言うよ」
やっぱそうですよね。
力なくそう呟くと、野木社長はリネンで口元を拭き、にっこり笑う。
「親を説得させられるだけの実績を渚も作ろうとしているし、君もここでそれを見て判断するといいよ。
どれほどの勇気と努力で、君のことを想っているのか、身に沁みるまでね。
それでも不安だというなら、僕がご両親を説得するか、最悪、君を私の娘にさせるよ。養子になるのは至難の業だろうけどね。それが出来るなら、渚と結婚させないって言わないだろうけど。
何があっても親というのは、自分の子が大切なんだ」
まさか養子まで考えてくれているとは思わなくて、考え方の違いに驚かされた。
な、なるほど。まぁでも自分の子が大切だと言ってるのだから、養子はあり得ないよね。
「ですが、親の了承を得たとしても、私の親族に警察官がいて、そこはどう足掻いてもクリアに出来なそうなんです」
スープスプーンをそっと置き、野木社長の方へ体を向けると、なんてことなさそうに社長は笑った。
「大丈夫だよ。その辺は渚が上手くやってくれるさ」
子供のおいたをなだめるような言い方だけど?
不安げに苦笑を浮かべると、野木社長は愉快そうに笑った。
「君は、ご両親の説得だけでいい。
あとは渚が頑張ればいいだけだよ」
「ですが、私も何かしたくて」
「君のご両親を説得させるのは、渚の役目でもあるけど、実際には君がどれだけ渚を信頼しているのか。が、鍵になるんじゃないかな?」
言われてみたら、そんな気がしてきた。
両親の言葉をまず聞かないことには何も始まらない。
どうやって説得するかばかり考えていたけど、両親の本音を聞いて、真摯に受け止めていかなきゃ。
いつも頭でっかちになり過ぎてしまうから、前に進めないでいるんだ。
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