924人が本棚に入れています
本棚に追加
「君たち2人が幸せになるビジョンさえ見せることが出来ればご両親も納得できるよね」
空にしたスープ皿を前にして、野木社長は一口大にした、しっとりしたバター香るパンを、上品に口に入れた。
「ご両親の方は根気良く説得するとして、問題は青柳組長だね」
そうだ。
野木くんのお父さんは1人だけではない。
青柳組長の最愛のアンネッタさんと、野木社長の間に生まれた渚くんを、青柳組長は一体どんな気持ちで彼を手元に置いてきたのだろう。
書類上は父親だけれど、アンネッタさんの気持ちは野木社長にあったと、尾崎さんは言っていた。
私がもし青柳組長の立場なら、、、渚くんは相手の子であるから、愛せるか怪しい気がする。
憎んでいると話していたけど、そこまでしなきゃいけなかったのだろうか。
自分を愛してくれなかったアンネッタさんを憎んでいるのか?
それとも、最愛の人が野木社長と子をもうけたことに恨んでいるのだろうか。
この簡単な想像で分かったことは、青柳組長の気持ちは憎しみがあるのは、確かなのだろうってこと。
「まずは、双方挨拶と話し合いの場が必要ですね」
「どこの家庭も円満に結婚許す!という訳ではないから、気負わずにね」
「はい。ありがとうございます」
軽く会釈をした瞬間気がつく。
はっ!違う!!
婚約者みたいな流れに落ち着いてしまっていたし、なんだったら挨拶する流れまで!!
今後の不安を吐露しただけのつもりが。
「すっかり親父の思い通りに誘導されちゃって、乙葉はまだまだだね」
クスクスと笑っていう野木くんは、千田さんとの会話から離脱していたようだった。
「聞いてたんだね」
聞かれていると思うと恥ずかしくなった。
「そうだ。乙葉の高校で同窓会の案内きた?」
「あ、うん。クルージングでの同窓会だって。みんな非日常でお酒飲みたいって言ってるみたいだね。野木くんのところにも届いた?」
「きたよ。白桜御の方も同窓会やるんだけど、よかったらパートナーとして一緒に出席してくれる?」
「え、私が参加してもいいの?」
「主催するのシークレットパーティー実行委員のメンバーで、俺もその1人なんだ。製薬会社の息子覚えてる??」
「くすりくん?」
懐かしい。自分の会社を継いでいるのだろうか?
「乙葉に会いたがってたよ。あと、小田原さんだっけ?」
雪子ちゃん!
暫く連絡取ってなかったが元気だろうか?
「ん?なんで雪子ちゃんが??」
野木くんはにんまり笑って、内緒っと白い歯を見せて言う。
「また秘密?」
「秘密多いほうがワクワクするでしょ?」
「私は先回りして過ごしたいから、事前に知っておきたい方なんだけど」
「俺と結婚したら大変だよー?乙葉のことびっくりさせたいって思ってるから、先回り出来るか試してみてね」
野木くんが何かしなくても毎日何かしらあるのに。
想像しただけでぐったりしそうで、思わず肩をすくめた。
「平穏な毎日がいいんですけど、、、」
「俺といて平穏に送れると思ってる??」
今のところ、野木くんと平穏に過ごせたのは一年生の頃くらいなイメージである。
そのあとはひたすらにいろんなトラブルに見舞われ、ゆっくり過ごせた日々など記憶にあまりない。
ぐっと押し黙ると、彼は冗談なのにと笑った。
白桜御といえば皇さんだ。
彼女はあのあとどうなったのだろうか。
最初のコメントを投稿しよう!