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娘さんを僕にください!
エデンガーデンに来てから1か月が経ち、ほとんどの部門を経験したあと、フロントクラークへ配属された。
今夜は白桜御の同窓会がエデンガーデンの宴会場で開かられることになっている。
なので、仕事を終えてそのまま、その会場に直行だ。
一応ドレスコードを設定しているとのことで、セミフォーマルなワンピースを用意した。
淡い水色の、野木くんの瞳の色みたいで、夏らしい爽やかな色合いが気に入って買ったものだ。
明日は2人で仕事の休みを合わせて申請した。
野木くんと私の両親に紹介するのだ。
既に緊張しかなく、今日の仕事もなんとかこなしたのだが、“結婚”という実感が少しづつ現実らしくなってきて、気持ちがソワソワしてしまう。
フロントクラークは前のホテルでもやっていたことがあったので、仕事に慣れるのは早かった。
ただ、ラグジュアリーホテルということもあって、難易度の高い要求をされることがあって、肝をヒヤリとさせる。
海外から来られるお客様が官邸に伝言をして欲しいとか、総理に会いたいとか、政治家関係の人も多く来られるようで、知識が乏しく、そこはベテランの先輩方とバトンタッチした。
まだまだ婚約者としての認めてもらうには先になりそうだ。
けれど、すでにホテル内に話は行き渡っており、認める認めない以前に、野木社長公認の婚約者。と祝福ムードだった。
そんな野木社長は、度々私を社長室に呼んでは、親戚は何人いるのか?友人は?前の同僚や上司は?職業は?何が好みで何がダメなのか教えて欲しいなど、細かいことを根掘り葉掘り聞かれる日々である。
野木くんはというと、既に青柳組長に結婚する報告をしたのだという。
反応は特になかったらしい。
その何も反応されなかった。というのがまた不気味で、良いのか、悪いのかもさっぱり分からない。
けれど、明らかに組の内部は不穏な気配がしていると尾崎さんが言っていた。
「如月さん、そろそろ同窓会の時間よね。
もうあがって、支度してきて。総支配人が早く来てって伝言残してたわよ」
「わかりました。では、お先失礼させて頂きます。お疲れ様です」
「お疲れ様ー!」
「楽しんできて、如月さん」
華やかなストールを首に身につけ、黒のジャケットに白のブラウスの制服は、フロントクラークの制服だ。
このお淑やかなメンバーたちに囲まれて、日々頑張っている。
ただ、夜間勤務もあるので、野木くんとは休みが合わないことが多く、同じホテルの中でもたまにしか会えないし、何より総支配人という立場は忙しそうだった。
このホテルだけでなく、グループ経営している上司たちとの会合や、野木グループのオフィスへ通ったり、提携している商店街や観光大使とのPR活動だったりと、多忙極めていた。
そして、あの日以来、野木くんとカップルとしてベッドに入っていない。
たまに私の家に遊びに来ても、野木くんは疲れているみたいで、お風呂に入ったまま寝てしまったり、マネジメントの本を見ながら寝ていたり、、、。
まるで高校生の時に戻った時のような、いや、それ以上に忙しそうで、疲れきっているようだった。
それでも弱音も吐かず、昼間はホテルマンとして、夜はヤクザとして忙しなく活動している。
何か手伝ってあげたいのだが、私にできるのは、野木くんの負担にならないよう、フロントの業務をしっかり全うすることだ。
失態を起こせば、野木くんに皺寄せがいく。
それだけはどうにかして阻止したい。
副総支配人も多忙のようだったが、長年勤めているのもあって、野木くんのフォローをしているらしい。
橋本さんは度々顔を見せに来ては、様子はどう?と心配してくれた。
野木くんが忙しいので、橋本さんが私の様子を見てくれているようだった。
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