青春聖戦 24年の思い出

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第2話 祐輝と一輝 小学校でも祐輝は野球チームの友達と遊ぶ事はなかった。 新宿タイガースというチームに所属する事になったが、祐輝は一輝以外の友人がいなかった。 同じクラスにタイガースのメンバーがいて家も近かったが、一緒に遊んだり下校を共にする事を嫌った。 かたくなに祐輝がタイガースのメンバーを嫌う理由。 それは勝(まさる)という男の子の存在だ。 勝はタイガースの監督の息子で小学校ではガキ大将的存在。 祐輝の父親の祐一と勝の父親は古い先輩後輩の関係にあり、祐一が先輩だった。 他のタイガースコーチ陣もほとんどが祐一の後輩で、コーチ達も祐一に下手で接していた。 祐一から最初に友達になれと紹介されたのが勝だった。 しかし祐輝は勝の妙な目つきや態度に違和感を覚え、接する事がなかった。 タイガースに入れられた祐輝を待っていたのは勝と勝に従う同級生達だった。 その中において一輝だけは幼稚園からの友達でタイガース内でも少し浮いていた。 祐輝には一輝だけがいてくれれば良かった。 金曜日が終わり、土日は野球三昧。 祐輝の嫌いな曜日だった。 そして同級生の子供達がぐっすり眠っている土曜日の早朝に祐一に叩き起こされて朝食を食べさせられる。 眠そうにぼーっとしていると祐一は怒りながら言う。 「やる気ねえなら置いていくぞ。」 「い、いま食べるよ。」 野球なんてどうだっていい。 祐輝はただ家族と一緒にいたかった。 野球をやらないと言うと、父親に捨てられてしまうのではないかという不安感があった。 そのために祐輝はただ野球を続けた。 眠そうにユニフォームを着て家を出ようとすると母の真美が起きてきて祐輝に手を振る。 「頑張ってね。」 祐輝にはその一言だけが心の支えであった。 そしてグランドに行くと、タイガースメンバーが集まっている。 同級生のメンバー達は勝を囲む様にして話をしているが、試合に出たいためなのか。 嫌われたくないからなのか。 心から楽しく接している様には見えなかった。 小学1年生の祐輝の主観だがそう見えていた。 その中でも一輝だけは祐輝がグランドに来ると嬉しそうに駆け寄ってくる。 「おはよー。」 「おはよ・・・」 「眠そうだね! 今日もキャッチボールやろうぜ!」 「うん!」 練習が開始されると準備運動からランニングまでをチームで掛け声を出して行う。 祐輝は最後尾でなんとかついていくが上手く足並みを揃えられず困っている。 すると一輝が最後尾に来て隣で足並みを揃えてくれる。 右、左と声を出して足並みを揃えた。 勝はそんな2人を振り返り見るとニヤッと笑った。 祐輝には悔しさや怒りではなく、不気味さを感じた。 そしてキャッチボールが始まると一輝が相手をしてくれた。 なかなかキャッチボールといえるほどの事はできなかった。 祐輝は上手く捕れず投げれずで走り回っている。 しかし祐輝が上手く投げられないという事は一輝もとても捕れる球ではない。 一輝も走り回っているが文句1つ言わなかった。 それどころか楽しそうに笑っている。 キャッチボールが終わり休憩を挟んだ。 「今日は水筒持ってるね!」 「うんお母さんがね。」 「そっか! スポドリ美味いよ!」 「ねえ一輝はどうして俺とキャッチボールしてくれるの?」 祐輝は尋ねた。 練習にもならないし何も楽しくないはずだ。 それなのに一輝は必ず付き合ってくれる。 一輝はスポドリをグビグビ飲んで口を手で拭くと笑顔で答えた。 「それは俺達は幼稚園からの親友だからだよ! 祐輝が野球やってくれるって聞いて嬉しかったんだよ! だから楽しい!」 「親友・・・」 幼い頃から友達と遊ぶ習慣がなかった祐輝には聞いた事のない言葉だった。 親友とは友達の事か? その日は親友という言葉が気になり練習にも集中できなかった。 家に帰り、母の真美に尋ねた。 「親友ってなに?」 「誰かが言ってくれたの?」 「うん。 一輝。」 「親友はね。 世界で一番大切な存在の事。 友達よりもずっと大切な人の事だよ。」 それは祐輝の中で何かが変わった言葉だった。 世界で一番大切。 それは真美からは何度も聞いた言葉だった。 しかし祐一からは聞いた事がなかった。 そんな言葉を一輝は自分に言ってくれた。 「お、俺野球頑張る!」 「うん! 楽しいなら頑張りなさい!」 その時だった。 「お前はもう野球やめちまえ。」
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