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Case 06 檻の中の告白
「星野理さんへ。あなたがこの手紙を読んでいるということは、私は刑務所の檻の中にいます。私は、由依さんの殺害未遂容疑で逮捕されました。看守の話によれば、由依さんは病院ですやすやと眠っているらしいです。私がやってしまったことはとても悪いことです。しかし、この命を授かってしまった以上、私はこの子を育てるつもりです。そして、理くん。もしも、由依さんが意識を取り戻したら、よろしくお願いします。」
僕は、その手紙を由依の病室で読んでいた。
獄中だと、当然スマホでのやり取りは禁じられているので手紙だけが頼りだ。
今はデジタルの時代であるが、どんなものでも最終的にはアナログへと辿り着くのだろうと、僕は思った。
俄然、由依は目を覚まさない。
刺された場所は心臓を掠めていたが、重症であることに変わりはない。
恐らく、後2日はこのままだろうと思っていた。
由依の体温が温かい。
まだ、生きているんだ。
意識を取り戻すという僅かな望みを託しながら、僕は病室のベッドで眠った。
「それで、なぜ星野由依を殺そうとしたんだ。」
「由依さんは私に堕胎を勧めてきたのです。不倫の末に授かった命だから当然だろうと思っていました。けれども、私がやってしまったことは2つの意味で悪いことです。だから、檻の中で反省するのは当然だろうと思っているんです。」
「そうか。初犯だし、恐らく執行猶予が設けられるだろう。過ちは元には戻せないが、未来を作り変える事はいくらでもできる。だから、君には確りと反省してほしい。」
「そうですか。」
「ああ、そうだ。」
私は、看守さんとそんな話をしていた。
看守さんは想像していたよりも、とても優しかった。
しかし、授かってしまった命はどうしようかと悩んでいた。
親権問題で揉めるぐらいならいっそ堕胎した方がいいのかもしれない。そんな事を思いながら、私は檻の中の冷たいベッドで眠りについた。
3週間後、私は釈放された。
当然、世間の目は冷たいものだった。
売れっ子女優が人気女優を殺害しようとしたからなのは分かっていた。
浴びせられる週刊誌のフラッシュの光。
駆け寄るテレビのニュースキャスター。
それらを掻き分けながら、マネージャーに誘導されて車へと向かった。
車の中には、理くんがいた。
「運転手さん、行き先は分かっているな。」
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