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Case 07 戻せぬ過ち
「優華さん。釈放されたんですね。」
「はい。由依さんも意識を取り戻して良かったです。」
「私はこの通り元気です。現実であなたに脇腹を刺されるとは思ってもいませんでしたが。」
「こらっ、由依。冗談は程々にしておけ。」
「理くん、ごめん。それで、優華さん。結局お腹の赤ちゃんはどうするんですか。」
「色々考えたけど、矢っ張り堕ろそうと思って。」
「それって、私のためですか?」
「そうですね。理くんと由依さんにはいい夫婦でいてほしいし、私が芸能界から引退すれば一連のゲス不倫に終止符が打たれると思って。」
「矢張り、芸能界から引退するんですね。」
「既婚者とのセックス、それによる妊娠、そして殺人未遂。私のやったことはとても赦される事ではありません。しかし、過ちは戻せないけど未来はいくらでも作り変える事ができる。刑務所の看守さんに言われて気づいたんですよ。」
「そうですか。それならば、私のマネージャーになってみるというのはどうでしょうか?」
「仮にもあなたを殺そうとしたんですよ?マネージャーなんて務まりません・・・。」
「ですよね。この話は無かったことにします。」
病室での由依さんの顔は、元気そうだった。
その顔を見て、私は安心した。
私がやってしまったことはとてつもなく悪いことだ。けれども、抱いてしまった殺意を消すことは中々できない。
この先、私は裁判にかけられる。
看守さんの言葉が正しければ、私は執行猶予付きの懲役3年を言い渡されるだろう。
その間、大人しくしておけばいいのだから。
翌日。
私は芸能界引退会見を開いた。
「本日はお集まりいただきありがとうございました。私、月島優華は本日をもって芸能界を引退いたします。」
当然、私の引退宣言にメディアはざわつく。
そんな中で、私は話を続ける。
「私が星野由依さんを殺そうとしたのは皆様ご存知でしょう。ワイドショーや週刊誌でも挙って取り上げられている筈です。その時に、私の中で『糸』が切れたような気がして。ただでさえ不倫の末に命を授かってしまい、堕胎することを選択した。私がこのまま芸能界でいい子ぶっていると、さらなるイメージダウンは避けられない。そのためにも、今回引退を決意いたしました。」
「不倫で授かった子を堕ろすということは、不倫を認めるということですか?」
「はい。認めます。」
「星野由依との関係はどうなんですか?」
「そこまで悪くありません。寧ろ、先日も病院で会ったところです。」
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