Last Case 破戒の道化師

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Last Case 破戒の道化師

 結局のところ、私の中に宿っていた命は消滅した。  不倫でこの命を授かってしまった以上、仕方ないと思っていた。  堕胎処置を終えた後、私は泣いていた。  「この子を育てたかった。けれども、親権問題がややこしいことになるから堕ろしたほうが良かったのかもしれない。」  「そうですね。不倫で妊娠して堕ろしたいという相談は多い。大抵の場合、セックスをする際はコンドームを着けるが、たまに着けていない人を見かける。だから、あなたみたいな相談者が絶えないんだ。あなたの決断が正しかったかどうかは分からない。けれども、それ決めるのは産婦人科の仕事ではなくあなたの仕事だ。きっと、そのうちいい人が見つかりますよ。」  看護師の言葉は、とても優しかった。  やってしまったことはとても悪いことだ。  既婚者の俳優と不倫をして、自分の中に命を宿してしまい、そして既婚者の妻を殺そうとした。おまけに宿した命を殺した。  俳優や女優というのは、道化師を演じているのと同義語である。  ならば、私は破戒の道化師だ。  それを分かった上で、私は道化師という仮面を投げ()てた。(了)  ※この作品はフィクションです。実在の登場人物・団体等は関係ありません。
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