『音の海』

1/1
前へ
/1ページ
次へ
波の音が十二音階を奏でる音の海がある。 波を鳴らす波奏者の私は、 他の波奏者といっしょにアンサンブルを奏でる。 いろいろな音が波に乗り運ばれてくる。 波の満ち引きに合わせて、 音になりそれを積み重ねて ひとつの曲にするのが私の仕事だ。 やがて日が暮れる。 日暮れのメロディは少し寂しげだ。 灯台の灯りが海を照らす。 船を見送る波音は別れのメロディ。 いつの間にか、 泣いている。 その涙の音さえ、 まるで美しい曲のように、 波に乗り聴こえる。 穏やかな夜の海の波音がかすかに聴こえる。 おやすみ、街よ 海よ  僕はもう帰るよ。 遠ざかる海獣の跫(あしおと)は、 シのフラットだった。 空と海、隣り合う血のつながらない 兄弟。あるいは姉妹。 最後には家族。 ありがとう。 ありがとう。 波は、言葉になり、 遠くの町の浜辺にたどり着く。 いつか、きっとこの歌声も。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加