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幼馴染みの両親が営む喫茶店で呆然としていた私は、よく知ったその声に顔を上げた。
見なくても分かる。幼馴染みの拓眞だ。
「……」
「何か言えよ」
「ほっといて」
話す気にもなれなくて、短く言葉を吐く。
さくらは、元々彼の家で飼われていた猫だ。
だけど、私があまりにも可愛がるから。
彼の家から私の家に来たのが、今から13年前のこと。
家族ぐるみで付き合いのある彼の一家も、よく私の家に来てはさくらを可愛がっていた。
みんなから愛される子だった。
だから、拓眞も同じ気持ちで居てくれるんじゃないかって思ったのだけど。
どうやらそれは、私の勘違いだったらしい。
「……拓眞なら、理解してくれると思ってた」
「お前の気持ちは分かってるつもりだ。俺だって悲しい。でも、どれだけ悲しんでも、さくらはもう戻って来ない」
どれだけ後悔したって悲しんだって、さくらは戻って来ない。
分かっている。そんなことは。
八つ当たりしか出来ない自分が惨めで、酷く滑稽に思えた。
「もう良い」
拓眞の顔を見たくなくて、駆け足で店を出た。
生ぬるい空気が頬を掠める。
大きな喪失感を誤魔化すために、ただひたすら走った。
どこまで行ったって、さくらの元には辿り着けない。
そう頭では理解しながらも、止めることは出来なかった。
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