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7月。うだるような暑い日だった。
授業が終わり、ひとりで学校を出た私は、家への道を急ぐ。
「ゆら、今日――」
「……」
幼馴染みから名前を呼ばれたけれど、気にしない。
気にしている余裕がなかった。
大切な彼女が死んだ。
15歳になる愛猫・さくら。
トラみたいなしましま模様とぶち柄の肉球。琥珀と翡翠のオッドアイ。
どこを切り取っても美しい彼女は、私の大切な家族。私が部屋を移動する度についてきて、一緒の布団で寝るほど懐いていた。
そんなさくらが世界で一番愛おしくて、大切だった。
だけど、生まれてからずっと一緒に居たその愛しき彼女は、もうこの世には居ない。
もし、時間を遡れるとしたら。
もう少しだけ優しくした。
もう少しだけ可愛がってあげた。
もう少しだけ、一緒に居たかった。
どれも、もう叶えることは出来ない。
溢れる涙が頬を伝う。
――これだから。
6月は嫌いだ。
大切な人が死ぬのは決まって6月で、良くないことが立て続けに起きるから。
7年前に事故に遭ったときから、6月は鬼門だ。
元気だったおじいちゃんは、二人とも6月に亡くなった。未曾有の大雨で洪水が起きて家が浸かったのも6月だった。
誕生日だからと、毎年指折り数えていた私はもう居ない。
あるのは、現実を受け入れられない私だけ。
何度も思う。
リセットボタンがあれば良いのに、と。
「また、さくらのこと考えてたのか」
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