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エピローグ
─1年後─
「カワイ過ぎるJKクラシックアーティストだ?」
カフェ『シュタイン』のメニュー立てに挟まれていた雑誌『THURSDAY』のセンターカラーページを見て、祐介が思わず声を上げた。
雑誌に『当店の記事が載っています』と書かれた手書きPOPと付箋が貼られていたので、祐介が付箋のページを開いてみると、あまりにも想定外の内容の記事が目に飛び込んで来た。
祐介は一通り記事に目を通すと、付箋のページを開いたまま、雑誌をテーブルの上に置いた。
信と由香が雑誌を覗き込む。
優里亜は既に見ていたのか、雑誌を見ようとはしない。
付箋のページは『今月の看板娘』というコーナーで、4ページに渡り、カフェ『シュタイン』の制服、衣装のブレザー、私服、演奏会用のドレスを纏ったイブが、インタビュー付きで載っていた。
「いつの間にこんな事になったんだ?」
信が言った。
「叔父さんの友達がこの雑誌の編集長で、ここにお客さんとして来た時に、イブちゃんの演奏聴いて気に入ったんだって」
優里亜が信の疑問に答える。
「イブちゃん、カワイイね。アイドルみたい。ヒラヒラの衣装とか着せたいな。絶対似合うよ」
アイドル好きの由香が言ったところで、テーブルにグラスが置かれた。
「完全な人選ミスだよね」
注文していた飲み物を持って来たホール業務中の美紀が言った。
「何で私じゃなくてイブなの? おかしいよね。貧乳で色気の無いイブより、私の方が絶対数字取れるのに」
「え、そこ!?」
優里亜がツッコむ。
「そういう問題じゃないから」
信も続く。
「クラシックのようなガチ分野のドル売り(注:アイドル的な売り出し方のこと)は、コアなファンからは嫌われるからな。『美人過ぎる』『カワイ過ぎる』って言っても、大体はその分野の中ではイイ方ってぐらいで、トップレベルの女優とかモデルと張り合えるレベルではないし、本職でやってる奴とは、素材以上に、経験、スキル、ノウハウの差もある。勘違いして進む方向間違うと、イブも店も一気にポシャるぞ」
祐介が言った。
「あっ、イブちゃんが来た」
由香が手を振ると、高校の制服姿のイブが駆け寄って来た。
「イブ、雑誌見たよ」
信が言った。
「あ、はい。店長に頼まれて取材受けたんですけど、やっぱり断った方が良かったですか?」
「やった事の無い分野に挑戦してみるのはいい事だと思うよ。視野が広がるし。自分の軸がブレなければ大丈夫だよ」
「はい。でも、こういうのは今回だけで止めます。記事の扱いに対して実力が追い付いていないのは、自分でも解ってますし。次に取材や撮影を受けるのは、音楽の内容だけで評価された時にします。私はシュートで聴かせられる音楽家になるのが目標ですから」
イブはキッパリと言い切った。
「余計な心配する必要は無さそうだな。しばらくの間は、雑誌を見た一見さんが来て、無駄に忙しくなるだろうけど」
祐介が言った。
信が続く。
「イブ。別に俺らの事は気にしなくていいからな。何を残して、何を変えて、何を伝えて行くのかは、全部自分達で決めろ。優里亜は、オマエを信じてバトンを渡したんだ。今いるメンバーで作り上げたものが、今の『シュタイン』のスタイルだ。大事なことは、『伝統や慣習に囚われず、自分の頭で考えること』だから」
「はい」
イブが信の目をしっかり見て言った。
「美紀もな」
「うん」
「じゃあ私、着替えて来ますね」
イブは店の奥へと消えて行った。
来店を告げる鐘が鳴り、『THURSDAY』を持った2人の男が店内に入って来た。
-Fin-
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