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「ひなた……」
やっと自分の気持ちに気づいた美雨は、陽向に対する愛おしさで胸がいっぱいになった。
陽向を潤んだ瞳で見つめると、唇が「好き」と動いた。
陽向は、その唇に吸い込まれそうになったが冷静を取り戻す。
「美雨、先輩にちゃんと自分の気持ちを伝えて……」
───
次の日、美雨は智也先輩に自分の気持ちを伝える為に、大学の中庭に呼び出した。
中庭で待っていると、智也先輩がやってきた。
「智也先輩……」
美雨の緊張した顔を見て、智也先輩は、良い返事ではないなと感じた。
「美雨ちゃん……」
「あの……智也先輩とは、やっぱりお付き合い出来ません。ごめんなさい」
緊張しすぎているのか、声が震えている。
「私……」
言葉がなかなか出てこない美雨を庇うように智也先輩は
「うん。何となく分かってたよ。側にいて欲しいのは、陽向くんでしょ?」
寂しそうに笑みを零す。
「ごめんなさい。私、自分の気持ちになかなか気がつけなくて」
「うん。大丈夫だから。一生懸命考えてくれてありがとう。一緒にいれた時間は、幸せだったし……」
「本当に、ごめんなさい」
美雨は、涙をこらえると精一杯の笑顔を見せて、その場を立ち去る。
それと同時に青かった空がシャワーのように細かい雨を落とし始めた。
慌てて美雨が戻って来て、智也先輩に自分の傘を渡した。
「使って下さい」
傘を開いて渡すと、再び走って行った。傘に弾ける雨音が優しい。心にも優しい傘を差してもらったようだ。
「美雨ちゃんらしいな……」
智也先輩の瞳から一筋の涙が頬を伝った。
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