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 「美雨、歩ける?」  陽向は、屈んで美雨に視線を合わせる。 「うん……大丈夫……」  2人並んでバス停まで歩いて行く。  美雨は、体がふわふわと真っ直ぐに歩けない。時々、よろけてしまう。陽向は、小さい頃によく手を繋いでくれたように握りしめた。  陽向の触れる指先はひんやりとしていた。大きな手のひらに包まれると暖かくなり美雨は安心する。  バスが来て2人並んで座った。  しばらくすると、美雨の頭がゆらゆらと揺れ動く。そんな美雨を見て陽向は、クスリと笑う。自分の肩に美雨の頭を優しく寄せた。 「着いたよ」  陽向の声で目を覚ます。  バスを降りると綿のように柔らかな雨が2人を濡らした。 「やっぱり雨が降ったね」  美雨は、そう言うと、雨の香りを胸いっぱいに吸い込んだ。 「陽向は、傘持ってる?」  美雨は、カバンの中にある傘を探した。 「あぁ、あるよ」  お互いに傘を差して並んで歩く。  柔らかく細かく心地よい雨が暖かく2人を包んでいるよう。  背の高い陽向の傘先から雨がポタリポタリと水時計のように美雨の傘にあたり落ちる。  何も話さなくても、優しい雨音が会話をしているみたい。 「落ち着いたみたいだな」  美雨は、物憂げに笑う陽向の笑顔が綺麗だと思った。  2人で並んで差す傘の距離は、離れ過ぎす、くっつき過ぎず、幼なじみの関係の距離に似ているのかも。  美雨は、ずっとこのまま一緒いたい……と、思った。  家の前に着くと、陽向は切なげな瞳で美雨を見て、美雨の方に手を伸ばすと、雨でクルリと癖がついた前髪に触れた。 「クセが出てる」  指先に前髪を絡ませ、揶揄うように笑った。  陽向の切なげな視線に見入っていた美雨は、鼓動が早くなる。ドキドキしているのを気が付かれないように 「もう、からかわないで」  ちょっとくすぐったいような顔をした。 「おやすみ」  陽向は、ふっと口角を上げて笑い、自分の家へと入って行った。
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