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車を見送って前を向くと、陽向がコンビニの袋を下げて立っていた。
「ひなた……」
「ん。今帰り?」
「陽向は?」
「買い物」
コンビニの袋を見せた。袋の中を覗くとアイスが入ってた。
「アイス」
「食べるなら来れば?」
陽向は、さっきまで智也先輩と会ってたのを見て知ってるのに、何とも思わないのかと心が揺らめく。
陽向の部屋に入って、ソファに2人並んでアイスを食べた。
ミルクの濃厚なバニラアイスは、美雨の好きなアイス。
2人で何も喋らずアイスを1口、1口と頬張る。いつもの事で、この雰囲気も嫌いじゃない。
最初に、話しかけてきたのは陽向。
「んで、何かあった?」
「えっ……」
「そんな顔してる」
何かあったとか、悩んでるとか、陽向には、全部お見通しで敵わない。でも、今の陽向には、言いづらい。
「言いたくないなら、聞かない」
陽向は、フッと笑うと、アイスの最後の1口を頬張った。
「ひなた……」
美雨は、陽向の背中に顔を寄せた。小さい頃から、自分の思考回路のキャパが超えるとする行動。陽向のゆっくりと刻む心臓の鼓動と、陽向の匂いを感じると落ち着く。
美雨は、落ち着いたのかゆっくりと話す。
「陽向、私を避けてたでしょ?」
「そんな事ないよ。幼なじみだからって、いつも一緒ってことないでしょ?」
「それはそうだけど……私、智也先輩に付き合うのか、どうか返事が欲しいって言われて」
その言葉に陽向は、深く吐息する。でも、美雨の話に耳を傾けてくれる。
「でも、先輩と居ても、いつも陽向が心の中にいて……手を触れられたり、髪に触れられると、陽向だったらって」
陽向は、ゆっくりと美雨を自分の背中から離すと向き合った。そして美雨の瞳を切れ長の長いまつ毛が重なる瞳で見つめた。
「俺だったら良いの?」
そして美雨の手を優しく包む。陽向の冷たい指先が触れた。ゆっくりと指先が温かなり、体温が美雨に伝わっていく。
陽向のずっと美雨を見つめていた視線が美雨の唇を映す。陽向のバニラの香りがする甘い吐息が、美雨の唇に触れた。
美雨は、甘い吐息に胸がドキドキと高鳴る。胸がぎゅっとなる程、陽向が恋しい。それに耐えられず瞳を閉じた。
美雨の手を包んでいた陽向の手にキュッと力が入る。その合図で美雨は目を開けた。
キスはされなかった。
「俺をどう感じる……好き?」
「陽向が好き……今になって分かった。ドキドキした……キス……」
「したい?でも幼なじみはキスはしない。ずっと一緒いて思い出は、たくさん共有するけどそれだけ。ちょっと友達の距離が近いだけ。幼なじみのままがいいって言ったのは美雨だよ」
「陽向は、私の事……」
「好きだよ。ずっと好き」
陽向は、今まで閉じ込めていた自分の想いを込めて、美雨の心に優しく届くように囁いた。
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