25人が本棚に入れています
本棚に追加
1
朝起きて窓の外を見ると、雨を含んだ薄墨色の空が今にも泣き出しそう。
「あー、最悪……雨降りそうだし、湿気が多い」
4月から大学生になった美雨の髪の毛は柔らかくて猫っ毛の癖毛で、前髪がクルクルとなってしまう。
前髪を決めるのに、アイロンして、ヘアスプレーで固めてと朝は忙しい。後ろ髪は短いと広がるから背中まで伸ばしているが、ふわふわとカールがかかっていた。
バスの時間に間に合わないと、慌てて家を出た同時に、隣の家から誰が出てきた。
家の前でバッタリと会ったのは、幼なじみの陽向。
幼稚園、小学校、中学校、高校、そして大学まで一緒で切っても切れない縁があるようだ。
「おはよ」
陽向に声をかけると、大きく欠伸をして美雨の方を見た。
「ふっ」
陽向は、微かに冷笑すると、美雨の前髪に手を持っていくと、つけっぱなしのカールを髪から外した。
美雨は慌てて陽向からカールを取り返す。
「前髪は女の子の命ですから……」
ほんのりと頬が熱くなる。カールを外し忘れた事より、陽向の長い指が髪の毛に触れてドキリとした。
「あっそ」
素っ気ない返事はいつもの事。
ちょうどバス停に着いたバスに2人で乗り込み、空いていた席に並んで座る。陽向はリュックからイヤホンを耳に付けると、腕組みをして、顔を伏せて寝てしまう。
「ついたら起こして」
「うん」
寝ている陽向の隣で美雨は窓の方を眺めた。
ぼんやり外を見ながら小さい頃を思い出す。
いじめっ子に意地悪されて泣いていると、いつも陽向が助けてくれた。「ボクが守ってあげる」そう言って手を繋いでくれた。あの頃は、優しくて、かっこよかった。今では、いつもやる気なくって、ダラダラしちゃってる。でも、大学は首席で合格してるから、頭は良いんだよね……
まぁ、大人になっても陽向は陽向だし、大切な幼なじみだから。
最初のコメントを投稿しよう!