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高い高い山の頂上におれの村はある。
村はとても小さいけど、自然溢れる美しい村で今のおれはその村で久しぶりに産まれた子供らしい。
そう、「今のおれ。」というのはおれはどうも前世の記憶というものがあるらしい。
この村ではたびたびそういう記憶持ちが生まれることがあるとか、養親のレインが言ってた。
ぶっちゃけ、記憶といってもすごく曖昧で
ものすごく便利で生きることにたいして苦労もしない環境で暮らしてたなぁくらいの記憶でそれがどういったものかとかはあんまりよくわからない。
でも名前だけは覚えてる。
理由はそれが今のおれの名前でもあるからだ。
なんで名前が同じなのかはおれもよくわからない。
レインはそれがおれの本当の名前だから大事にしなさい、としか言わなかった。
よくわからん。
と、まぁ少し特殊な生まれではあってもこの村ではべつに違和感もなにも抱く暇もなく育った。
なんでかって?
その問題がおれにとってすごーーく瑣末事だからだ。
雲海の中をアヴィオンに乗って飛んでいく。
アヴィオンとはおれの村、もっと言えばおれの種族?龍族とかいうらしいけどその種族の人しか乗ることのできない乗り物で形はバイクに片翼2メートルほどの翼のついた乗り物なんだがこれがとにかく楽しい!
こんなに自由に空を飛べるんだからもうそれは夢中になって飛んだ。
最近はレインのお墨付きももらってアヴィオンに乗って渡り鳥を追いかけて飛んだり、雲海すれすれを飛んだり西むこうの山まで出かけたりしておれはアヴィオンを謳歌していた。
今日もアヴィオンに乗って青い空を飛んでいると、少し離れた雲間に見慣れたシルエットを見つける。
たまにうちの村にも寄ってくれる飛行商船だ。
この航路はきっとうちの村に入りたいけど風がよめなくて地団駄ふんでるところみたいだ。
アヴィオンをその商船にむけて飛ばす。
「こんにちはーー!」
船の上にある監視塔によって呼びかけると見かけない顔の船員がびっくりして口をパクパクさせている。
「ヴィクセンさんいますかー!」
そう呼びかけると監視塔にある伝声管から聞き慣れた声がした。
『なんだ!?レインのとこのボウズか?』
「うんー!」
『ちょっと下のブリッジ近くの甲板まで来れるかー!』
威勢の言いその声に返事をしてアヴィオンの高度を少しさげて甲板の横を飛ぶ。
すると船室からこの船の船長のヴィクセンさんが出てくる。
「よぉ!ボウズ!なんだ、もうアヴィオン乗りこなしたのか!?」
「うん!ヴィクセンさん久しぶり!」
黒髪でモスグリーンの瞳を細めて豪快に笑う眼帯の男、ヴィクセンはいう。
「そうか、そうか!ところでボウズ!すまねぇが先導してくれねぇか!ちょうどおまえんとこの村に入りたいんだがどうにも風と雲が読めなくてな。もしくは村から先導できる誰かを呼んで来るとかでもいいしよ。」
「もちろん、たぶん苦戦してるんだろうなぁと思って来たんだ。ここ一帯はレムの結界が1番強いからね。」
「そりゃ助かる!頼むわ!」
「とりあえず高度あげなきゃね。」
おれはアヴィオンのコックピット左側に収納されてるパイオネットと呼ばれるこれまたうちの種族でしか扱えない杖を引っ張り出した。
おれの種族は魔法、とくに空を飛んだりするために必要な風の魔法にたけていてその魔法を使うとき村長のレムから生まれたときにもらうこのパイオネットを使う。
形は1メートルほどの杖で少し装飾がされているそれは狩りのときにも使うもので魔素を収束して銃みたいにして使ったり、剣として使うこともできるすぐれものだ。ちなみにアヴィオンを喚び出すときもこのパイオネットが必要だ。そのへんの理屈はよくわからないけどレムはアヴィオンとパイオネットがそもそも同じ材質でできていてリンクしてるらしい。
おれはパイオネットを使って風の魔法を使う、するとグンッと商船の高度があがった。
「ヴィクセンさん!このまま連れて行けるけど大丈夫?」
「おう!頼むわ!」
おれはヴィクセンさんにサムズアップをして商船の前にでてまた少しくるんっとパイオネットをふる。
そのまままた風の魔法を使っておれのアヴィオンについてこれるように商船を押し上げながら村へとつながる雲間を飛んだ。
「ほう……うまく飛ぶもんだなぁ」
甲板でヴィクセンが手でひさしをつくって船を先導するまだ幼い、龍族の子供の背中をみる。
「あの子は龍族の?」
ふと声がして振り返ると船室を出てきた今回の依頼者でもある金髪碧眼のまだ幼さを残す青年がヴィクセンに話しかけた。
「ええ、ノーマン殿下。あの子がこの間話してた子ですよ。龍族でまだ幼いのにあの村長のレムがそれは可愛がって飛ぶことを教えたせいでやんちゃざかりのナオトって子ですわ。」
「へぇ、あの村長が……」
ノーマンとよばれたその青年は楽しそうにくるくると飛び回るまだ幼い少年をみる。
紺色の短めの髪が青い空に映えて見えた。
ふと、少し振り返ったその瞳とかち合う。
瞳はまるでその背にした空を切り取ったような美しい青い瞳だった。
ナオトとよばれたその少年は無邪気に笑ってこちらに手をふった。
自然となぜか自分も手を振り返す。
「殿下、外は寒いですから中へ。」
側近のハロルドがそういって呼びにくるまで手をふった。
とても綺麗で無邪気な俺の運命に出会った瞬間だった。
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