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 その後、二人で村へ戻るとちょうどナオトを呼ぶレインの声がした。 「なーにーー?」 二人で駆け出しながらレインのもとへといく。 「狩りに行くぞ。」 その一言にナオトが飛び上がらんばかりに喜ぶ。 「ノーマンは?ノーマンもいく?」 「おまえ……殿下を呼び捨てか……」 レインは呆れたように額を覆った。 「あ、いえ、私がそう呼んでほしいと言ったので気にしないでください。」 ノーマンそう言いながら苦笑する。 「ねぇ、ノーマンは?ノーマンと一緒に行きたい!」 ナオトはぐいぐいとレインの服を掴んでひっぱる。 「どうしますか?殿下。」 レインがわしわしとナオトをなでながらノーマンに聞く。 「迷惑じゃなければ、ぜひ。」 ノーマンも龍族の狩りは気になっていたのでうなずくとナオトがさっそく喜んで飛び上がる。 「やったあ!ね、ノーマンおれのアヴィオンに乗る?」 「おまえのアヴィオンは絶対だめ!!」 すかさずレインがとめる。 「えぇーなんで?」 「おまえの乗り方は絶対殿下には無理!」 「えぇー!!大丈夫だよ!絶対落とさないもん!ね、ノーマン!!」 「えっと……」 ちら、とレインを見るとため息をついてレインはいう。 「殿下、空中での急降下急上昇にはたえられますか?場合によっちゃ一回転もするし急速旋回もします。振り落とされない自信ありますか?ついでにこいつはこの村で1番速いです。」 そう言われ想像してみる。 「……ナオト、すまない。ちょっと無理かもしれない。」 「えぇーー……」 「ナオ、殿下はアヴィオンに乗るのは初めてなんだ。なんでも自分基準で考えるな。」 レインがそういって諭すとナオトは唇を少しとがらせてこくんとうなずいた。 その様子に少し悪い気がしてノーマンはいう。 「はじめてナオトの飛んでるところを見たときすごく綺麗だった。それをまた見せてくれないか?」 そう言うとナオトの顔に笑顔が戻る。 「うん!」 ナオトは元気にうなずくとそのまま走り出してひょいと崖を飛び降りた。 「え!!!」 驚いたノーマンをよそにすぐにふわりと上昇し村の上空で綺麗にくるくると螺旋を描いて飛ぶアヴィオンに乗るナオトが見えた。 「レインー!はやくー!!」 「はいはい。殿下、空は寒いですからこれを。」 手渡された外套を羽織るとレインはパイオネットをくるりと手のひらでまわすとどこからともなくアヴィオンが現れる。 「さぁ、行きましょう。」 レインはアヴィオンにまたがってそういった。 ―――――――――――――――――――――――     青い空を前を行くナオトの乗ったアヴィオンが鳥とドッグファイトしながら飛んでいく。 少し離れたところでナオトのパイオネットから収束した魔力を打ち出した音がした。 そのまま落ちていく獲物をおって急降下をはじめ、数分も立たないうちにナオトがレインのアヴィオンの横へと戻ってくる。 そのままアヴィオンの翼を軽い身のこなしでレインのアヴィオンに乗り移り、後ろに乗るノーマンに大きな鷹を手渡した。 「……すごいな、ナオト。」 あっけにとられながらノーマンはナオトからその鷹をうけとる。 「えへへ、ほんと?あ、ノーマン!これよろしくね!また見つけた!」 ナオトはそのまま後ろ向きに倒れて空中に身を放り出す。 「えっ!!?」 落ちていくナオトを見ればそれを追いかけるようにナオトのアヴィオンがひとりでに飛び、ナオトはまたそれにまたがり、ビュンっと飛び出して行った。 「…すごい」 「あんまり褒めちゃだめですよ。まったく、あいつ危険運転はやめろって言ってんだが聞かないんですよ。だからもう逆に絶対に怪我しないように飛行技術を詰め込みで教えこんだらいつのまにかあぁなってしまいまして……」 「すごいですね……」 ゆったりと2人空を飛びながら目の前でアクロバット飛行をしながら狩りをするナオトをながめた。   その夜の晩御飯は村をあげてのお祭り騒ぎだった。理由は今日行った狩りの最後にかなり大型の鳥型の魔物をナオトが狩ってきたからだ。 大きさはそれこそアヴィオンよりも2周りほど大きくてさすがに狩るときはレインも手伝っていたがほとんどナオトが狩ったようなものだった。 その狩りの様子は圧巻で最初はドッグファイトしながらパイオネットを撃ち込んでいたが相手もそれにはものともせず飛び回るので業を煮やしたナオトがアヴィオンから飛び降りてその魔物に乗り移ってしとめたものだった。 仕留めた魔物が重すぎてナオトが運べずにふらふらと落ちて行ったときはなかなかにヒヤッとしたがそれでもレインの助けをかりてなんとか村へと戻った。 星空の下、村の中心で焚かれる焚き火の周りには村人が集まり、陽気な音楽とともにくるくるとみんな踊りだす。 「ノーマン!踊ろう!」 「え、俺は踊り方とか知らないが……」 「そんなのないよ、くるくるしてれば良いんだよ」 ナオトのあたたかい手がノーマンの手をとり、二人でくるくると手を繋いで回る。 笑顔ではしゃぐナオトにつられてノーマンも困りながらも次第に笑顔になっていった。  しばらくそうして踊って、疲れたので休憩しようと見れば村人たちの輪から少し離れたそこにあの銀龍が優しいまなざしでこちらを見つめていた。 ノーマンは少し息を呑んでレムのもとへと歩み寄る。 [そうして笑っているほうがおまえさんらしい。] 先日話したときよりもずっと優しいその声音にノーマンは少し驚いて、すぐに顔をそむける。 「ありがとうございます。この村に受け入れてくれて。」 [礼ならあの子に。] レムはそう言ってたのしそうにまだはしゃいでいるナオトをみる。 [おまえは純粋だね、ナオトがおまえを気にかけるのもわかる気がする。] レムはそう言いながらその大きな身体を少し起こした。 「俺はっ……純粋なんかではありません。……力もないくせにそれを他人に求めるしかできない、ズルい人間だ。」 ノーマンの顔が泣きそうにくしゃりと歪む。 「今だってナオトと仲良くなったことを理由にあなたに交渉しようとしてる。それをすれば、ナオトも巻き込んでしまうことさえわかってて……それでも……」 [まぁ、お座りよ] レムは自分の横に視線を落とした。 ノーマンはそれにしたがってとなりに腰をおろす。 [この村はどうだった?] 「……美しかったです。こんなもの今まで俺の周りにはなかった。……いつもあるのは猜疑心と野心に乱れた人の目で、あんなに……あんなに綺麗な瞳を俺は見たことがなかった。」 座ったノーマンの拳が強く握られる。 「それでも、……そんな場所でも俺はやっぱり守りたい。ここに劣らないほど美しいものを、大事で手放したくないものを俺も知ってるから。」 その言葉に銀龍はすいっとノーマンに顔をよせた。 [……気高く優しい子、おまえの願いを叶えてやることができないのは申し訳ないと思っている。] 優しい声音のレムがそう話す。 [だが、守るための助けなら少しはできるかもしれない。] 「え……?」 ノーマンがその澄んだ金の瞳をみる。 [剣を出しなさい。] 言われるまま、腰にある剣を抜き放つと刀身が銀の粒子をまとい始めた。 [もし、これからさき迷い打ちひしがれ、途方にくれてもその魔力が曇らぬ限り、私の力がおまえを守ろう。] 刀身になにか模様が刻まれる。 「これは……。」 [古い習わしさ、昔から龍は戦士にはこうして祝福をした。……これは私の力、私の分身、おまえが望むならその一端を貸そう。おまえが守りたいもののために。] その言葉にノーマンは立ち上がって頭をさげる。 「ありがとうございますっ……」 レムはその目を細めて微笑む。 [その代わり、少しお願いをきいてくれないか?] 「俺にできることであれば。」 そういえばレムは殊更嬉しそうに微笑んだ。 [いや、願い……ではないか。おまえも感じただろう?運命を。] 「え?」 レムの視線の先にはナオトがいる。 [その運命が花開く瞬間、どうかあの子のそばにいてやってくれないか。] 「それはどういう……?」 レムの言葉に首をかしげて聞くと澄んだ金の瞳がノーマンをみつめる。 [その瞬間が来たらわかる。そこでおまえがなにを選ぶのかはお前次第だ。] 村人たちの喧騒が遠くに聞こえる。 [ナオトをどうか、頼む。] 強い風がふいた瞬間、音がとまった。 目の前には銀の龍ではなく、美しい一人の長い銀髪の女性がそこにいた。 その人はとても満足そうに優しい微笑みを浮かべていう。 [君の空に幸多からんことを願う。] 途端、音が急に戻ってナオトに呼ばれた。 「ノーマン!」 歩み寄ってきたナオトに手を繋がれる。 「レムと話せた?」 「え……?」 さきほどそこにいたはずの女性も銀の龍もいなくて、幻だったのだろうかとさえ思えた。 でもナオトが微笑んでいう。 「レム笑ってたね。」 「ナオトも見た?」 「うん、すごく嬉しそうだった。ねぇ、レムとなに話してたの?」 ナオトが好奇心旺盛にそう聞くがノーマンは神殿のほうを見つめ、またかるく頭を下げた。 「励ましてもらったんだ。俺なりに頑張っていいって言ってくれた。」 その言葉にナオトは微笑む。 「そっか、よかったね。ノーマン。」 「あぁ。」 この村ですごした最後の夜、2人手を繋いで星空の下笑いあった。   次の日、帰る時刻となり俺はナオトと約束をした。ナオトが大きくなって一人で村から出てもいい歳頃になったらかならず俺に会いに来てくれると。 再会の約束をするナオトの目には少し涙が浮かんでいた。だから俺も約束をすることにする。 いつかまたこの村にやってくることを。その証にナオトにシンプルな雫の形をした片側だけのピアスを贈る。 今はこれしか贈れないけど今度また会えたときは必ずそのもう片方を贈ると約束をして。 商船に乗り込んで来たときと同じようにナオトが商船の先導をする。その傍らにはレインもいて、結界を抜けたあと、ナオトが商船と並走して手をふる。 徐々にナオトのアヴィオンを追い越して進む商船。 力一杯手をふるナオトに応えるように俺も手をふった。もう見えなくなってしまう、そう思ったとき遠くの雲間から高く高く空を舞い上がる見慣れたシルエットが綺麗に螺旋を描いて一回転した。 きっともう見えないだろうけどそれに応えたくてまた手を大きくふった。 かならず、いつか約束を果たせると信じて。  その約束がこんな形で果たされるなんてこのときは夢にも思わなかった。
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