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それから2日後の夕方、再び祖父の大きな声が家に響いた。
それは僕が祖父と一緒にお風呂に入っているときだった。
「なんてこった!せっかく干したのに、こりゃぁまた濡れちまう」
一緒に湯船に浸かっていた祖父が急いで出て、お風呂場の扉を開けて祖母を呼んだ。
「母さん!母さん!雨だ!わしの長靴が濡れちまう!とりこんでくれ!」
「雨?」
僕には雨の音など全く聞こえなかったし、それに似たような音も聞こえない。
「じいちゃん、雨の音聞こえないよ?」
僕はひとり残された湯船から少し大きい声で祖父に言った。
その僕の声を聞いて振り返った祖父は、信じられないとでも言いたそうな顔で僕の方を見た。
「お前には聞こえんのか?こんなに大きい音がか?耳が悪いんか?」
お風呂場の扉の近くから僕のもとへ戻ってきた祖父は本当に心配した顔をしていた。そんなに大きい雨音が祖父には聞こえているのか。
僕には全く聞こえないのに。
「僕は雨の音聞こえないよ。じいちゃんには聞こえるの?」
改めてそう祖父につたえると今度は焦ったように急いでお風呂場から出された。
「母さん!大変だ!こいつは耳がよう聞こえんのかもしれん!」
祖父は僕を急いで拭いて、台所にいる祖母のもとへ連れて行った。
急いで拭いたためか、祖父も僕も髪の毛がほとんど濡れたままだった。
祖母は夕飯の準備の手を止めると、怒った顔で振り返った。
「お父さん!!雨なんて降ってないじゃない!この前もそうだけど、あなたの耳がおかしいんじゃないの?!」
あまりの祖母の怒りように、僕と祖父は黙って脱衣所に戻り頭を拭いた。
やっぱり雨は降っていなかった。
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