雨音が連れ去った人

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 今日みたいな夏の暑い日に降る雨  こういう雨の日には必ず思い出す  祖父を連れて行った雨の音を 蒸し暑い夏の昼過ぎ、大きな声が家に響いた。 「おーい、雨が降っとるぞー。おーい、誰かおらんのか」 奥の和室から祖父の声がした。 雨が降っていると聞いた祖母は居間から小走りで出て行った。 庭に干した洗濯物を取り込みに行ったのだ。 居間で祖母と一緒に昼寝をしていた僕も祖父の声で目が覚めた。 僕はまだ少し眠い目をこすりながら、祖母の手伝いをしようと庭へ向かった。 「降ってないじゃないの」 祖母に追いついた僕も外を見た。雨なんて降ってない。 むしろとてもよく晴れていた。僕が午前中に遊んだ水遊びのあともすっかり乾いていた。 「ばあちゃん、雨降ってないね。じいちゃん、雨って言ってたよ」 「ほんとね、雨なんて降ってないじゃない……。お日様元気いっぱいね」 祖母と僕はてをつないで居間へ戻った。 そして、祖母は奥の和室にいる祖父のもとへ行くと少し大きい声で言った。 「お父さん、雨なんて降ってないわよ。カンカン照り!」 「そうか?たしかに雨の音がしたんだがな……」 少しむっとした祖母の声と不思議そうな祖父の声が聞こえたが、 慰安でお茶を飲んでいた僕は夕飯のおかずのことで頭がいっぱいだった。
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